親近拘束
駅前の喧騒、コーヒーの匂い、そして床の継ぎ目。 すべてを「正しく」配置しなければ、呼吸の仕方を忘れてしまう。 そんな強迫的な日常を生きる「女」の前に現れたのは、周囲の騒がしさと切り離されたような、真っ直ぐな立ち姿の「男」だった。
惹かれ合う二人の間に横たわるのは、心臓という名の時限装置。 脈動が速まれば、終わりが近づく。 「いける」という確信は、死への最短距離を意味していた。
女医が机に並べた三つの選択肢。 薬か、移植か、それとも――。 極限の緊張感の中で、二人が選んだのは「白紙」という名の猶予だった。
触れれば安心が生まれ、安心は油断を招く。 愛するために、触れない。 共に生きるために、一歩、下がる。 心拍数という残酷なメトロノームに支配された二人が、白紙の地図を手に、終わりなき「停滞」へと足を踏み出す。
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2021/05/29 公開
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