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【第四章】魔王様との魔界生活

九話 ユタカとリスドォルは結ばれる

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「神レジャンデールをご存知ですか」


 少し嬉しそうに声が弾むファリーヌ。


「ご存知も何も俺が勇者になった切っ掛けがレジィだ」
「そういうことですか。あなたが魔界を束ねられる理由がよくわかりました」


 ファリーヌからのレジィの評価がめちゃくちゃ高いな。
 確かにレジィの力は凄い。
 フランセーズとデュラムの使う力を見ていたら加護の強力さがわかるし、異世界から俺を呼んだりもしている。
 でも本人は自分の力を誇示するようなタイプではない。


「レジィは別に統括とかいう偉そうな立場じゃねーぞ。今はむしろ隠居方向っていうか」
「おやおや、とても素晴らしいお方なので残念です」
「ファリーヌはなんでそんなにレジィに一目置いてるんだ?」
「簡単にいえば喧嘩を吹っ掛けて半殺しにされたのですよねぇ」


 レジィ! やるじゃん!


「うそ、ファリーヌがそんなことになってたなんて知らなかった!」
「敗者にペナルティがある訳ではありませんし、ほんのお遊びのつもりでしたが、良い勉強になりましたよ」


 パノヴァも初耳だったのか。
 その敗北から、ファリーヌ的には少し大人しくなったらしい。
 レジィに倒されてなかったらもっと面倒だったんだろうと思うと、過去のレジィには感謝しかない。
 リズ様にレジィの事とか神界の事を色々と聞きたいが、天使がいる前ではできないので今度ゆっくり聞こう。

 ファリーヌは当時の話に軽く触れてくれた。


「天使は、神、魔神ときて、その次の三番目くらいの立場です。立場というのは強さそのものです。当時そのランクを覆したいと思った私は戦争を仕掛けました」
「戦争!?」


 急に話が大きくなって驚いてしまう。
 しかしファリーヌは首を横に振った。


「種族間の戦争ですが、代表者との一対一が基本ですので人間が想像するものとは違うかもしれません」


 戦争より決闘の方がイメージに近いな。
 納得の表情になった俺に満足したのかファリーヌは話を続ける。


「その種族を背負う代表者として常に君臨していたのがレジャンデール様なのですよ。闘神と呼ばれておりました」


 あんな子供の姿で闘神。
 想像がつかないが、強さに関しては否定する気にはならない。
 勇者を連続して三人もつくるって、普通できるものじゃないらしいからな。
 世界の展覧会の規定にも勇者の数を制限するものはないらしいが、一人が限界だから示されていないだけなのだそうだ。


「まあ、ランクが上がったからといって何かある訳でもありませんし、戦争を吹っ掛けられ、受けて立つのもとても面倒でしょう? 次第に誰も神からその座を奪おうとしなくなりました。落ち着いた頃にはレジャンデール様が神界を取りまとめる立場になるとばかり思っておりました」


 リズ様が神から堕ちた事でレジィにまで影響が出ちゃったからな。


「またレジィと話せたら、ファリーヌの事伝えておくよ」
「それが魔界に来た一番の収穫ですね。感謝致します勇者。それでは私達は新たな救済へ向かいます」
「ファリーヌをボコボコにした神かぁ、私も見てみたいなぁ」


 そんな事を口々に言いながら二人の天使は魔界から出て行った。
 ファムエールとイーグルはどうなったんだろうな。
 あまりに音沙汰が無かったら探しに行ってやろう、なんて考えていたらリズ様が大きな溜め息をついた。


「私は何故どこへ行っても城を修復しなければならないのだ……」
「あ」


 あの天使、ただ城の一部を壊して帰っただけじゃねーか!
 迷惑きわまりないが、そういうものと慣れていくしかないらしい。
 地球みたいに訴訟とかないからな。

 でも、それより俺はどうしても進めたい事があった。


「修復はまた後日ゆっくりしましょう」


 俺はリズ様を引き寄せ、抱きしめた。
 リズ様は少し驚いていたが、すぐに抱きしめ返してくれる。


「リズ様……やっと二人きりになれたんですよ」
「……ああ、そうだな」


 視線を交わし、どちらともなく唇を重ね合う。
 互いに背中へまわした腕に力が入る。
 静かな森に、二人の息遣いだけが響くようだ。


「リズ様……」
「ん……?」


 ゆっくりと距離が離れ、目を合わせる。


「俺は、リズ様に相応しい男であり続けます。だから、俺に全てを預けてくれますか」


 静かに、ゆっくりと告げる。
 もう俺に、引くという選択肢はなかった。


「ユタカ」


 もう一度リズ様が口付けてくれる。何度も何度も啄むように軽く触れる。


「私は愛がわからなかった。もしかしたらほんの少し前も、本当には理解していなかったのかもしれない」


 キスの合間にそう囁く。


「でも、やっとわかった。お前の気持ち、衝動が」


 そう言ってリズ様は深く俺の中に入り込む。
 俺もすぐにそれに応える。
 頭が痺れてきて、このままリズ様を好き放題に暴きたいという感情に支配されそうになる。
 必死に抑えていると、リズ様が唇を離し、俺の頬を撫でた。


「お前に全て奪われたい」

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