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一章 〜浄化の聖女×消滅の魔女〜

危機的状況×帰るべき場所

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 アルルは今、危機的状況に置かれている。

「聖女様のご帰還だ! 宴を開け!」

「今日を帰らずの森の記念日としようではないか!」

(いやちょっと長めの遠征から帰ってきただけじゃん!)

 目の前で繰り広げられているどんちゃん騒ぎ馬鹿騒ぎに、思わずしり込みをする。
 アルルにとってはこの程度の遠征など日常の如くありふれていたのだ、無理もない。

「ガッハッハ! 酒だ酒だ! 聖女様のお帰りが楽しみじゃわい!」

(こんなんじゃ顔出したくないんだけど!?)

 ほとぼりが冷めるのを待つ間、ウィロウとアイリーネの様子を見に、新たに開拓された東地区へと向かうことにした。

 こじんまりとした小さな赤い屋根の一軒家。
 隣接する小さな庭には黄色い花が三輪咲いている。
 ドアをノックすれば、元気な様子の二人がアルルを出迎えた。

「いきなり一人で飛び出していったかと思えば、2300人全員を納得させるなどという役目を押し付けられ……恨むぞ聖女」

 顔を合わせるなり、アルルに対し恨み節を連ねるウィロウ。

「ごめん、そんなつもりは無かったんだってほんと。ただちょっとほら……そう、忘れてただけで」

 そう、アルルが引き連れていた2300人全員、移住先に魔物がいるなどとは一言も聞かされていなかったのだ。
 民衆を説得するのにウィロウが大層難儀したのは言うまでもないが、何だかんだでやり遂げてしまうあたり、元英雄の名に恥じないカリスマ性を持っている。

「まあまあウィル、助けて頂いたのだから文句は言いっこなしよ?」

 そしてアイリーネが苦言を呈すウィロウを窘める。

「そうそう、これで差し引き無しってことで」

「……実際、ここの皆には良くして貰っている。恨みは晴れんが改めて感謝する」

 ウィロウはそんな冗談を交えつつも頭を深く下げた。

「感謝しなくていいから恨みだけは晴らして!? ほんと謝るから!」

「ウィルから貴女の事は伺いました。私たちに巡って来た幸運と、聖女アルルに改めて感謝を申し上げます」

 ウィロウに続き、アイリーネも深々と頭を下げる。

「幸運に恵まれたのはこっちもだけどね。そこの英雄さんが暴れてくれなかったら今頃どうなってたか分からないし」

「全ては因果の巡り合わせ、ということか」

「そういうことかな。とりあえず元気にやってるみたいで安心した。んじゃ、あたしは館戻るね。力が必要になったら借りるけど、相応の報酬は払うからよろしく」

「ああ、いつでも歓迎する」

「何も無い時でも是非遊びに来て下さい、いつでも歓迎致します」

 そうして二人の様子を見届けたアルルは、気配偽装を行ったままこっそりと館の自室に向かった。
 道中、いつもの面々がリビングに集まり何やら話し込んでいるのを目に留める。

「あるるん、まだ帰ってこない……何かあった――訳はないと思うけど」

「私はもうお姉さま成分が尽きて干からびて死にそうです……」

 フィーレの足元で、すっかり綺麗な白色と毛並みを取り戻したロシェが早く枕にしてくれと言わんばかりに一声鳴く。

「やはり無理を掛け過ぎてしまったのだろうか……? そうなれば我は腹を切らねばなるまい……」

「ジゼ様、このバグロスもお供致します」

 周辺諸国の秘密諜報を任されていたバグロスだが、今回の事件に関しては事前情報を提供出来ず、力添えが出来なかったことを大層悔やんでいる様子。

(みんなして死ぬとかなんとか物騒すぎでしょ! こわいんだけど!)

 この異質とも言える光景を見なかったことにしたアルルは、そのまま自室へと足を運んだ。

「うん、やっと帰ってきたって感じ」

 と、ドアノブに手を掛けようとしたその瞬間――

「あっ! お姉さま発見しました!」

 曲がり角から、気配を消して行動していたフィーレに発見されてしまう。

「ちょっ!? フィーレあんたどっから出てきたの!?」

 早速特訓の成果が出ているようだが、既に本来の用途とは全く違う使われ方をしている模様。

 フィーレが声を上げた20秒後には、アルルは四方を囲まれてしまっていた。

(なにこの包囲網)

「お帰りなさいませ、お姉さま!」

 少し筋肉が付き、全体的に更に細くなったフィーレ。

「あるるんお帰り! みてみて! あるるんのおかげでもうすっかり元気になったんだ!」

 怪我痕の一つも無くなり、完全回復したテトラ。

「大儀であったな、アルル殿。我は腹を切らずに済みそうか?」

 どことなく後ろめたさを隠しきれていない様子のジゼ。

「お帰りなさいませ、お嬢様。このバグロス、此度のご活躍につきまして、改めて敬服致しました」

 無表情に敬愛と無念を隠すバグロス。

 そして、自分の毛並みの良さをこれでもかとばかりに主張するロシェ。

「一気に言われても分かんないってば! ……けど、ただいま」

 やはり此処こそが自分の帰るべき場所なのだと、改めて実感したアルルであった。
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