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第3章 九条琢磨 15
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「こちらに・・・レンちゃんの父親を名乗る人物がおります。」
レンの担任の先生が琢磨と舞を案内したのは園長室だった。ドアの前に立つと先生は小声で言った。
「男性はかなり興奮しているようなので・・気を付けて下さい。」
そして頭を下げると足早にその場を去って行った。
「く・・九条さん・・・。」
舞が不安げに琢磨を見る。
「大丈夫です、私が一緒ですから。」
琢磨は舞を心配させないように力強く返事をした。だが・・・。
(相手は父親だ・・・。そして彼女は定職についていないフリーターでましてや独身・・裁判所に訴えられれば父親の方に有利に事が進むのは目に見えている。一体どうすればこっちが優位に働く・・・?)
「あ、あの・・九条さん。中に入らないのですか?」
「いえ、すみませんでした。行きましょう。」
琢磨は一度深呼吸すると、扉をノックした。
コンコン
「本田さんですか?」
すると部屋の中から女性の声が聞こえた。
「はい、そうです。」
「どうぞお入り下さい。」
琢磨はその言葉を聞き、扉をカチャリと開けた。目に飛び込んできたのは部屋の中央にある長テーブルを挟み、向かい合わせにソファに座る2人の人物だった。右側には初老の女性、左側には・・・。
「あ・・・お、お前は・・!」
レンの父親と名乗る男は琢磨を見ると一瞬で顔を歪めた。
「失礼致します、私は九条琢磨と申します。本日は本田舞さんの付き添いで一緒に参りました。」
琢磨は平然と挨拶をした。
「本田舞です。遅くなりまして申し訳ございません。」
舞は頭を下げた。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへお掛け下さい。」
初老の女性は場所を移動し、琢磨たちの正面の椅子に座ると自分が先ほどまで座っていたソファを示した。
「はい、失礼致します。」
琢磨はさっそうとソファに向かうと座った。舞もそれに習い、琢磨の隣に座る。
その様子をレンの父親は睨み付けるように見ていた。
舞と琢磨がソファに座ると、早速男が口を開いた。
「あんた・・・一体何者だ?言っておくがな・・・俺とレンは実の親子なんだ。息子を引き取りに来て何が悪い?」
まるで酒にでも酔っているかのような乱暴な口調に琢磨は眉をしかめた。
(何なんだ?この男は・・随分乱暴な男だな・・。)
すると舞が負けじと言った。
「父親?ふざけないで下さい。貴方はレンちゃんの前でも姉に暴力を振るっていたそうじゃないですか?子供の前で母親に暴力を振るう・・それだってレンちゃんにとっては立派な虐待ですよ?」
「うるさい!それはあの女が生意気だったからだ!誰の稼ぎで生活できたと思っているんだ!」
「姉の事を悪く言わないで下さい!」
「お、落ち着いて下さい・・2人とも・・・まずは冷静になって下さい。」
園長はオロオロしながら言う。
琢磨は口を開いた。
「貴方・・・先ほど言ってはいけない台詞を言いましたね?『誰の稼ぎで生活できたと思っている』と・・。」
「ああ、言った。当然だろう?あいつはただの短時間パートでしか働かなかった。なのに俺は朝から晩まで会社でヘトヘトになる迄働いていたんだ。あいつらを食わせてやる為にな!なのにちょっとしたことであいつはすぐ俺に注文を付けてきやがって・・!」
「注文?一体どんな注文なんですか?」
舞は睨み付けながら言った。
「食事がいらなくなったなら連絡を入れてくれとか、あまり酒を飲み過ぎないでくれとか・・生意気なっ!俺がどうこうしようが俺の自由だっ!」
そして今度は琢磨を見た。
「おい!ひょっとして貴様は弁護士か何かか?いや・・・そんなはずないか。この女は定職にもつかない貧乏なお女だからな・・。言っておくが職も無い、独身で貧しい女が親権なんかとれっこ無いからな?!」
男は琢磨が考えている事と同じことを言った。しかし・・・。
「いいえ、取れますよ。」
琢磨は言った。
「な?何だって・・・?」
男は首を傾げた。
「私は舞さんの婚約者で、近い内に彼女と結婚するつもりですから。」
「「「えっ?!」」」
琢磨の言葉に周りは一斉に驚いた―。
レンの担任の先生が琢磨と舞を案内したのは園長室だった。ドアの前に立つと先生は小声で言った。
「男性はかなり興奮しているようなので・・気を付けて下さい。」
そして頭を下げると足早にその場を去って行った。
「く・・九条さん・・・。」
舞が不安げに琢磨を見る。
「大丈夫です、私が一緒ですから。」
琢磨は舞を心配させないように力強く返事をした。だが・・・。
(相手は父親だ・・・。そして彼女は定職についていないフリーターでましてや独身・・裁判所に訴えられれば父親の方に有利に事が進むのは目に見えている。一体どうすればこっちが優位に働く・・・?)
「あ、あの・・九条さん。中に入らないのですか?」
「いえ、すみませんでした。行きましょう。」
琢磨は一度深呼吸すると、扉をノックした。
コンコン
「本田さんですか?」
すると部屋の中から女性の声が聞こえた。
「はい、そうです。」
「どうぞお入り下さい。」
琢磨はその言葉を聞き、扉をカチャリと開けた。目に飛び込んできたのは部屋の中央にある長テーブルを挟み、向かい合わせにソファに座る2人の人物だった。右側には初老の女性、左側には・・・。
「あ・・・お、お前は・・!」
レンの父親と名乗る男は琢磨を見ると一瞬で顔を歪めた。
「失礼致します、私は九条琢磨と申します。本日は本田舞さんの付き添いで一緒に参りました。」
琢磨は平然と挨拶をした。
「本田舞です。遅くなりまして申し訳ございません。」
舞は頭を下げた。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへお掛け下さい。」
初老の女性は場所を移動し、琢磨たちの正面の椅子に座ると自分が先ほどまで座っていたソファを示した。
「はい、失礼致します。」
琢磨はさっそうとソファに向かうと座った。舞もそれに習い、琢磨の隣に座る。
その様子をレンの父親は睨み付けるように見ていた。
舞と琢磨がソファに座ると、早速男が口を開いた。
「あんた・・・一体何者だ?言っておくがな・・・俺とレンは実の親子なんだ。息子を引き取りに来て何が悪い?」
まるで酒にでも酔っているかのような乱暴な口調に琢磨は眉をしかめた。
(何なんだ?この男は・・随分乱暴な男だな・・。)
すると舞が負けじと言った。
「父親?ふざけないで下さい。貴方はレンちゃんの前でも姉に暴力を振るっていたそうじゃないですか?子供の前で母親に暴力を振るう・・それだってレンちゃんにとっては立派な虐待ですよ?」
「うるさい!それはあの女が生意気だったからだ!誰の稼ぎで生活できたと思っているんだ!」
「姉の事を悪く言わないで下さい!」
「お、落ち着いて下さい・・2人とも・・・まずは冷静になって下さい。」
園長はオロオロしながら言う。
琢磨は口を開いた。
「貴方・・・先ほど言ってはいけない台詞を言いましたね?『誰の稼ぎで生活できたと思っている』と・・。」
「ああ、言った。当然だろう?あいつはただの短時間パートでしか働かなかった。なのに俺は朝から晩まで会社でヘトヘトになる迄働いていたんだ。あいつらを食わせてやる為にな!なのにちょっとしたことであいつはすぐ俺に注文を付けてきやがって・・!」
「注文?一体どんな注文なんですか?」
舞は睨み付けながら言った。
「食事がいらなくなったなら連絡を入れてくれとか、あまり酒を飲み過ぎないでくれとか・・生意気なっ!俺がどうこうしようが俺の自由だっ!」
そして今度は琢磨を見た。
「おい!ひょっとして貴様は弁護士か何かか?いや・・・そんなはずないか。この女は定職にもつかない貧乏なお女だからな・・。言っておくが職も無い、独身で貧しい女が親権なんかとれっこ無いからな?!」
男は琢磨が考えている事と同じことを言った。しかし・・・。
「いいえ、取れますよ。」
琢磨は言った。
「な?何だって・・・?」
男は首を傾げた。
「私は舞さんの婚約者で、近い内に彼女と結婚するつもりですから。」
「「「えっ?!」」」
琢磨の言葉に周りは一斉に驚いた―。
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