「アウルル、お前を愛することはない」と初夜で白い結婚を告げた公爵アーノルドは、悪役令嬢アウルルにざまあされてしまう。

白い結婚と悪役令嬢

 フランセ王国の名門――マルセイユ公爵家。
 その当主となったばかりの青年、アーノルド=マルセイユは、静かな寝室でひとりの女性と向き合っていた。
 紫の長い髪、整った顔立ち、そしてどこか妖しげな微笑み。
 彼女こそ、元“悪役令嬢”――アウルル。
 本来であれば王族に嫁ぐはずだった彼女は、第二王子によって冤罪で婚約破棄され、社交界から追放されかけた存在だ。
 だが。

「王命だ。拒否権はない」

 第一王子エリオットの一言で、彼女はアーノルドの妻となった。

(……なぜ、こうなった)

 アーノルドは内心でため息をつく。
 父と兄を失い、叔父に爵位を奪われかけ、ようやく取り戻したばかり。
 結婚どころではないはずだった。
 だが――

「……言っておく」

 アーノルドは、冷静に言葉を選びながら口を開く。

「お前を愛することはない」

 はっきりとした拒絶。
 それは政略結婚においては、珍しいものではない。
 しかし。

「ええ、存じています」

 アウルルは、にこりと微笑んだ。

「……は?」

 予想外の返答に、アーノルドは眉をひそめる。

「アーノルド様には、わたくし以外に大切な方がいらっしゃるのでしょう?」
「そんな人間はいない」

 即座に否定する。
 だが、アウルルは首をかしげた。

「ふふ……隠さなくてもよろしいのですよ?」
「隠すも何も——」
「禁断の愛、ですものね」

 その一言で、空気が変わった。
 ぞくり、と背筋に冷たいものが走る。

「……何を言っている?」
「ご安心ください。わたくし、すべて察しておりますので」

 にやり、と妖しく微笑むアウルル。
 その目は、まるで全てを見透かしているかのようだった。

(……何も察していないはずだ)

 だが、なぜか否定しきれない不気味さがある。

「では、わたくしはこれで」

 アウルルは優雅に一礼すると、そのまま寝台へ。
 まるで何事もなかったかのように。
 一方のアーノルドは——

(……気味が悪い)

 そう思いながら、静かに寝室を後にした。
 この結婚は、何かがおかしい。
 そんな予感だけが、胸に残っていた。
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