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362.4マシューさんの妻4(告白)✔

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 カリナさんは大きく深呼吸をすると意を決したように話し始めた。

「勇者の姉の子孫であるわたしは邪神教の幹部候補のひとりとして育てられました。ところが魔蟻のスタンピードにより、住んでいた施設は壊滅してしまいました。魔蟻は魔法大国アスラダに向かうと聞かされていたんです。……あのスタンピードは邪神教が魔石を使い人為的に発生させたのです」

 カリナさんは何度も詰まりながら話しており、悲壮感が漂っている。邪神教の信者、それも幹部候補だと言うではないか、ここにいる全員が驚いており、特にマシューさんの驚きようはすごい。仇の邪神教の幹部候補が自分の妻になっていたなんて相当なショックを受けているんじゃないかな。

「信じてもらえないかもしれませんが、避難民として受け入れてもらいマシューさんやアルフレッド様のやさしさに触れ、邪神教の教えが間違っていることに気づかされたのです」

「今まで辛かっただろう? 打ち明けてくれたカリナを私は信じているよ!」

 マシューさんが優しく寄り添うとカリナさんは嗚咽しながら続ける。

「結界の魔道具を発動させて隣のロデル村に逃げることができました。ですがそこにも魔蟻が押し寄せ、結界も魔力切れでつかえないため諦めかけていました。そんな時でしたアルフレッド様が現れて助けられたのです。……アルフレッド様の村に受け入れてもらい、住む場所に食事も提供してもらいました。農業法人で働き学校で読み書きも習いました。村での生活は今まで教えられていたモノとは全く違っていたのです」

 カリナさんはアレックス君の足首に嵌められた魔道具を気にしながら必死に話し続ける。

「マシュー商会に雇われ仕事にも慣れて来た時でした、商会を乗っ取るように連絡があったのです。最初は指示に従いマシューさんに近づいていたのかもしれません、私にも分からないのです。ですが職員やマシューさんのやさしさに触れ、邪神教の起こしたテロにより家族を亡くされたことも知り、邪神教の行いに疑念をいだきました」

 カリナさんは目を瞑ると何かを思い出しているのか黙り込んでしまった。みんなカリナさんが話し出すまで待っている。すると「ふぅ!」と大きな息を吐きマシューさんの目を見た。

「病原菌テロでも誰かを助けるために自分の命を危険にさらして、グラン帝国に必要な荷物を届けていました。その姿を見ているうちにマシューさんの力になりたいと思うようになっていたのです。それからは自然とマシューさんの近くにいることが多くなり、あろうことか妻になってほしいと言われ、アレックスを授かったのです。それからは邪神教の連絡にも応じることはしませんでした。すると……アレックスやマシューさん、それに店の者達にひどい仕打ちをしたのです!」

 カリナさんはアレックス君の足首に嵌められた魔道具をしきりに気にしている。

「アレックスを人質に取られ、資金と情報を提供するように言われたのです。お金を渡すしかなく、自分の裁量の範囲で工面しました。しかし、邪神教は壊滅的な被害を出しており渡したお金では足りないと催促されたのです。多額のお金はすぐに準備なんてできないと伝えると、マシューさんを拉致する強硬策に出ると言うのです。時間稼ぎするためには別の何かに注意を向けさせる必要がありました。それも信用されるような内容の情報が……」

 壊滅的な被害を与えたのは俺だ、きっと新たな拠点を作るためや活動資金をマシュー商会から搾取するつもりだったんだな。

「アルフレッド様には申し訳ないと思いましたが、邪神教の調査を行う計画があると情報を提供しました。信用させるためには正しい情報を提供するしかなかったのです。本当に申し訳ないと思っています、ですが結果的にマシューさんや商会の人を巻き込んでしまいました……このままここにいては迷惑を掛けるばかりです。それに魔道具が爆発すれば近くにいるものは亡くなってしまいます」

 カリナさんはアレックス君の足首に嵌められた魔道具を握り大粒の涙を流し始めた。

 こんなに危険が身近に迫るまで気が付かないなんて……俺は心のどこかで大丈夫だと油断していたようだ。

「今回もアルフレッド様に助けてもらえましたが、アレックスを人質に取られ命の危険にもさらされ続けています。そこで私の知っている全てのことをお話しすることに決めました。すでに移動している可能性もありますが知っている施設は全てここに書き記しています。あな……マシュー様、今までありがとうございました……私を離婚してください!」

 カリナさんがマシューさんに向き合うと無理に笑顔を浮かべ、他人行儀な口調で言った。

「カリナ、何を言い出すんだ! 今まで通り一緒に……」

 マシューさんがオロオロしだすとカリナさんを抱きしめ、離さまいと実力行使に出た。

「ここにいれば迷惑を掛けてしまいます……」

 ふたりを見ていられないため、話しに割り込む。

「どこにいても同じだから、安全に魔道具を外す方法を探しましょう!」

「でも、爆発したら……」

 カリナさんは不安そうにしており、安心させないと同意してくれそうにない。

「みんなで警護するから魔道具が外せるまではアレックス君とうちで暮らしてください!僕とマシューさんを信じて!」

 目を合わせて訴えかけるとカリナさんは目を逸らさず、やっと微笑んでくれた。

「……ありがとうございます!」

 悩んでいたが、部屋に結界を張り中で生活することを提案するとやっと同意してくれた。その足で屋敷に移動してもらい、マシューさんには毎日通ってもらうよう提案してみた。マシューさんがいいなら一緒に暮してもらってもいいと代替え案も提案してみたが、魔道具を外すまでは危険だからとカリナさんに即答で却下されてしまった。

 受けとった資料は有効に使わせてもらおう、誤った教育を受けて洗脳されている信者もいるらしいので、できるだけ自然な形で本当の事を見てもらえるようにしたい。

 もしもを考えるとアレックス君の魔道具をいきなり解除するのは怖い、そこで邪神教の施設で押収した爆発の魔道具で試す。

 結界の魔道具なら魔力を込めていくと破壊できるんだけど、爆発の魔道具は名前の通り爆発するんだ。この魔道具を外すには合言葉がいるとカリナさんから聞いたが、肝心の合言葉は分からないそうだ。

 数日様子を見ていると魔道具の魔力が減っていることが魔力鑑定眼で確認できた。度の魔道具も魔力がなくなれば作動できなくなるはずだ。魔力を吸収できないか実験したら大当たり、完全に抜き取ることに成功した。勿論魔力がないため爆発なんてしなかった。

 七日も経過したが無事に取り外すことに成功、外れた時のカリナさんとマシューさんの顔ったら涙と鼻水まで出て酷いものだったよ。何度もお礼を言うと三人で幸せそうに帰って行った。

 暗号が分からなくてどうやって外そうか悩んでいたんだけど、無事に取り外しできてホッとしたよ。
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