隣の隣人?奇人?変人?宇宙人?

隣の隣人?奇人?変人?宇宙人?

 東京に出てきて、最初に覚えた言葉は「家賃」だった。

 山村花子、十八歳。
 田舎から逃げるように上京し、手に持っていたのはスーツケース一つと、ほとんど中身のない通帳だけ。

「とにかく安いところでいいです。
 どこでもいいので」

 不動産屋でそう言った瞬間、若い社員の顔がピタリと固まった。

 パソコン画面を見つめ、キーボードに指を置いたまま、数秒。
 数十秒。
 やがて小さく咳払いをする。

「……安い、ですか」

 花子はうなずいた。

「多少古くても、狭くても大丈夫です。
 寝られればいいので」

 社員は困ったように眉を下げ、首をかしげた。
 そのときだった。

「――一軒だけ、あるぞい」

 背後から、しわがれた声がした。

 振り返ると、いつの間に立っていたのか、小柄な爺さんが一人。
 不動産屋の制服でもなく、客にも見えない。
 まるで、そこに最初からいたかのような顔をしていた。

「家賃五千円じゃ」

「……は?」

 思わず声が漏れる。

 社員も同時に振り返り、驚いた顔をした。

「い、いや、その物件は……」

「空いとる。
 住めるかどうかは、本人次第じゃがな」

 爺さんは、にやりとも笑わず、ただそう言った。

 数十分後。
 花子は、爺さんの案内で、都心から少し外れた場所に立っていた。

 すんげー木造。
 壁は歪み、廊下は軋み、今にも倒れそうな二階建てのアパート。

 正直、見た瞬間、帰りたくなった。

 ――でも。

「家賃、月五千円」

 その一言で、すべてがどうでもよくなった。

 こうして、花子はそのアパートに住むことになった。

 後になって、気づく。

 このアパートには、奇妙なことが一つだけある。

 隣人は変わらない。
 隣の隣人が、毎回変わる。

 昨日までいたはずの人が、翌日にはいない。
 知らない顔が、何事もなかったように住んでいる。

 なのに、誰に聞いても言うのだ。

「え?
 隣の隣人?
 最初から、そんな人いましたっけ?」

 花子はまだ知らなかった。

 ――この距離が、一番おかしいということ
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