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第二部 中華世界転移人子孫の里

第38話 四家論剣

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 リン家の稽古場で、クラウスとノエルが日課の稽古の打ち合いを終えて汗をタオルで拭きながら会話している。

「こっちで暮らす?」
 クラウスはうーんと考え込む。
「領地も見なければならないし、フローラもいるしなあ……」
「そうだろう?、わたしとて、こんなところにこもって暮らすなどごめんだ」

「その四家論剣というのは、なんだ?」
「昔は、一年に一度、四家総帥のうちで誰が一番強いかを論じ、時には戦って決めていた場だったんだが、今では一族の決定事項を四家総帥で話し合う場に過ぎない」

「総帥の話し合いねえ……」
 クラウスは、ホン・ランメイ、チャン・ダーウェイ、ツェン・ロン、三人の総帥の顔を思い浮かべた。
「まともな話し合いができるメンバーとは思えないが……」

 ノエルはため息をつく。
「そうなんだ。たいていの議案は『勝手にしろ』という感じだ。もっとも、今回は助かるけどな」

「反対者がいたら、どうするんだ?」
「勝負して、勝てば良し。負ければそれまで。まあ、こんな古いしきたり、誰も興味も無いから大丈夫だろう」
「だと、いいが……」

「どうなっても、クラウスと離れて暮らすなど考えられない」
 ノエルはクラウスを見て、ニッコリと笑った。クラウスは気まずそうにうつむく。
「その、宴会の時の誓いなんだが……」

 ノエルは笑顔のままでクラウスの首に両腕を回した。
「もういいよ。お前の気持ちはわかっているから」
 ノエルは少し恥ずかしそうにしてうつむく。
「あの時は、二人で寝るのが恥ずかしくて逃げ出した、というのもあった……」

 クラウスはそんなノエルを愛おしげに見て、指で下あごを上げてキスをする。ノエルは目を閉じて受け入れ、首に回して腕に力を入れて抱きしめた。

「アニキ――!、ひで――!」

 二人が声の方を見ると涙目のツェン・ロンが立っていた。
「俺、午後来るって言ったよねー?、これって嫌がらせ?」
 二人は抱き合うのを止めてパッと離れた。

「あんまりだー……」
 さめざめと泣くツェン・ロンのそばを、一族の服を着たフローラとセリア、クロエが笑いながら走ってきた。
「お兄様、ノエルさん、見て!、似合ってますか?」

 そう言って、クラウス達の前でくるっと回ってみせる。

 その姿を見たツェン・ロンの胸はドキッと高鳴った。
「ア、アニキ、この子は……」
「妹のフローラだが……」
 ツェン・ロンは脱兎のごとく走って行き、両手でフローラの手を取る。
「初めまして、わたくし、お兄様に剣を教わりますツェン・ロンと申しまして」

 キョトンとするフローラとの間にセリアとクロエが割って入った。
「汚い手で触るな、ツェン・ロン!」
「あっちいって!」

 そんな四人をクラウスが笑いながら見る。
「忙しいヤツだな……」
「まったく……」
 ツェン・ロンの心変わりの速さにあきれるノエルだった。



 高い石の山の頂上が平らにされ、円となった平面に石を彫り上げて作られた四つの椅子が正方形状に等間隔に並ぶ。
 椅子に座っているのは四家の総帥達。それぞれの隣に補佐役が立っている。
 四家論剣が始まっていた。

 ノエルの隣に立つアレットが文書を読み上げる。
「次はリン家より、総帥結婚後の居住場所の規則改訂についての議案です。全員賛成が必要となっています」

 ツェン・ロンが手を上げて発言する。
「リン家の意向、ツェン家は異論無し。賛成」

「チャン家、いかがですか?」
 チャン・ダーウェイが肉まんを食べながら答える。
「んー、ノエルが結婚しても、ガリアンのスイーツ、おみやげあるってこど?」

 ノエルがニッコリ笑って答える。
「その通りだ。帰省のときは毎回、スイーツどっさり、おみやげ、いっぱいだ」
「じゃあ、大賛成!」
 チャン・ダーウェイは文字通り、双手を上げて賛成した。

「では最後に、ホン家、いかがですか?」

 ホン・ランメイは椅子の上で脚を組み、ふんぞり返って答える。

「ケッ、くだらねえ。てめーら夫婦がどこに住もうが、別れようが、ホン家になんの関係がある?、勝手にすりゃあいい。あのジジイやババアの言いなりもシャクだしな」

「では、ホン家も賛成と言うことで……」

 ランメイはクククと笑い出した。
「だがよー、反対すりゃ、てめえとやれるんだろ、ノエル?」

 ニヤーと意地悪そうな笑みが顔に浮かぶ。
「だから、はんたーい」
「ランメイ!、キサマ……」
 ノエルににらみつけられても、ホン・ランメイは全く臆せずケッケッケッと笑い続けた。
「やろうぜ、ノエル」



 リン家の稽古場。ノエルが二メートルほどの槍を素振りしている姿を、あきれた顔のクラウスが見ている。
「……それで、ホン家総帥と一騎打ち?、いいのか、そんな決め方で?」
「ランメイの出方は、まあ、あり得ると予想はしてたがな」

 ノエルは素振りを止め、槍を地に着け、額の汗を腕でぬぐった。
「今回は長槍ではなく、それでやるのか?」
 クラウスはノエルの手の槍を指差した。

「細い長槍ではヤツの矛の打撃に耐えられない。一度、ぶち折られて負けた」
「アレットから、四勝六敗と聞いたが強いのか?」
「ヤツは強い。だが、その成績は二年前までの話だ。お前が強くなっているように、わたしも強くなっている」

 手にした槍を両手でクルクルと旋回させ、ピタッと止めて穂先をクラウスの鼻先に向ける。
「わたしの稽古相手は誰だ、剣帝クラウス?」

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