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ループ
162.腹黒ナスタリアの計略
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教会で一度だけ会ったシスター・タニアは前世と同じだった。親切で穏やかな態度に安心し、とても二心がある人には見えなかった。
「何か気になることがあるなら言った方がいいよ。僕、精霊王の言葉が気になってるんだよね。ほら、正しい人が常に正しい行動をするわけじゃないってやつ。
すごく意味深だと思ったんだ」
【⋯⋯正しき行いをする者が常に正しい行いをするとは限らない】
「確かになぁ、しかし相手はシスター・タニアだぞ? 本部でも信頼されてる実力者だし⋯⋯何年も一緒にやってきて加護の行使もピカ一で何の問題もねえ」
「ローザリアはなぜ気になるのか教えてくれる?」
「自信はないんだけど前世で最後に会った時のシスター・タニアの様子がずっと気になってるの。それまではすごく良い人だった。親切で優しくて色々教えてくれたり、とても良い人だったから。
王宮に呼び出された日、シスター・タニアがナスタリア神父に急ぎの信書を届けにきたのは偶々かもしれない。
でもその後⋯⋯地下牢に連行される私を見たシスター・タニアが、冷たい目で笑ったように見えたの。
見間違いかもしれないし、今世では違うかもしれないとも思うし」
「なら、連れてかない理由を考えるか。うーん、今回の作戦だとすげぇ難しいなぁ」
「じゃあできれば連れてかない。連れてくことになったら誰かが監視するっていうのは?」
ローザリアはニールの折衷案に頷くしかなかった。
「俺達は一度教会に帰り、騒ぎが起きると同時に教会を出て公爵邸に駆けつける。その時ローザリアと合流する」
「私はここに残りますね。加護を戴いたと言っても役に立てるほど力はありませんし、もしもの時足手纏いにしかなりませんから」
「うん、その方が安心してやれる。ありがとう、エリサ」
その夜、公爵邸⋯⋯。
「カサンドラ様、王弟妃様からお届け物でございます」
「こんな時間に? きっといつものアレね。後で見るからそこに置いておいて」
ローザリアとエリサがいなくなり捜索するべきだと騒ぎ立てたセバスの代わりにやってきたケビンは、カサンドラ宛の荷物をテーブルの上に置きながら顔色を窺った。
「なに? まだ何かあるの?」
「はい、あの。荷物とは別にお手紙も届いておりまして」
「そう、誰から?」
「ローザリ⋯⋯アが」
カサンドラの癇癪を恐れたケビンがゴニョゴニョと言葉を濁した。
「ローザリア? アレは字なんて書けないわよ! 貸して、誰の悪戯か見ればわかるはずだわ!!」
震える手で手紙を渡したケビンはカサンドラの癇癪から逃げ出した。
ローザリアからの手紙には、旅の途中で素晴らしい仲間に巡り合いとても幸せに暮らしていると書いてあった。見たこともない果物やお菓子を仲間と一緒に食べる喜びが綴られており、手が怒りで震えはじめた。
手紙の最後には、公爵家での暮らしがあったからこそほんの些細な親切でさえも喜べる、ありがとうございましたとまで書かれていた。
「何なのよ!! アイツが幸せですって! 許さない⋯⋯連れ戻して今度こそ性根を叩き直してやるわ。アレは不幸と痛みで泣き叫んでいればいいのよ!!」
カサンドラの怒りが頂点に達した時テーブルの上の箱がガタガタと揺れはじめ、暫くしてクローゼットからも小さな音が聞こえてきた。
カサンドラの怒りで吹き出した魔力を闇の魔石が吸い込んでいく。轟々と風が吹き荒れ⋯⋯⋯。
ドガーン! バリバリバリ!!
魔石に込められていた力が暴走し、部屋を粉々にしただけでなく屋敷の壁が吹き飛んだ。
ドガーン!!
カサンドラの部屋で起きた暴発にリリアーナのネックレスの石が反応した。カチカチジリジリと振動しはじめた石⋯⋯。
「なに⋯⋯どうなってるの!?」
慌ててネックレスを外そうとするが手が震えて上手く外せない。
「やだ、誰か、誰か助けて⋯⋯お母様!」
リリアーナが引きちぎろうとしていたネックレスが弾け飛び火柱が立ち上がった。火はリリアーナの部屋を焼き屋敷のあちこちからに飛び火していく。
「きゃあー、かっ、火事よぉ!!」
「誰か、助けてぇー」
「逃げろおー」
使用人達がわれ先に逃げだしカサンドラとリリアーナもその後に続いた。
魔力を失ったカサンドラが呆然と見つめる間に屋敷の火はどんどん広がっていく。
(闇の魔石が暴走したんだわ⋯⋯水の公爵家から火だなんて拙い)
「お母様⋯⋯一体何が。私は水の加護なのに、水が出ないの! お母様からいただいたネックレスから火が出るし⋯⋯ねえ、お母様、なんで!?」
「煩いわね、お黙り!! 今はそれどころじゃないのよ!」
カサンドラにはリリアーナの問いに応える余裕はなかった。
(教会が来てしまう前に魔石を何とかしなければ。それに、水の公爵家が火事なんて、どう言い訳すれば良いの)
「何か気になることがあるなら言った方がいいよ。僕、精霊王の言葉が気になってるんだよね。ほら、正しい人が常に正しい行動をするわけじゃないってやつ。
すごく意味深だと思ったんだ」
【⋯⋯正しき行いをする者が常に正しい行いをするとは限らない】
「確かになぁ、しかし相手はシスター・タニアだぞ? 本部でも信頼されてる実力者だし⋯⋯何年も一緒にやってきて加護の行使もピカ一で何の問題もねえ」
「ローザリアはなぜ気になるのか教えてくれる?」
「自信はないんだけど前世で最後に会った時のシスター・タニアの様子がずっと気になってるの。それまではすごく良い人だった。親切で優しくて色々教えてくれたり、とても良い人だったから。
王宮に呼び出された日、シスター・タニアがナスタリア神父に急ぎの信書を届けにきたのは偶々かもしれない。
でもその後⋯⋯地下牢に連行される私を見たシスター・タニアが、冷たい目で笑ったように見えたの。
見間違いかもしれないし、今世では違うかもしれないとも思うし」
「なら、連れてかない理由を考えるか。うーん、今回の作戦だとすげぇ難しいなぁ」
「じゃあできれば連れてかない。連れてくことになったら誰かが監視するっていうのは?」
ローザリアはニールの折衷案に頷くしかなかった。
「俺達は一度教会に帰り、騒ぎが起きると同時に教会を出て公爵邸に駆けつける。その時ローザリアと合流する」
「私はここに残りますね。加護を戴いたと言っても役に立てるほど力はありませんし、もしもの時足手纏いにしかなりませんから」
「うん、その方が安心してやれる。ありがとう、エリサ」
その夜、公爵邸⋯⋯。
「カサンドラ様、王弟妃様からお届け物でございます」
「こんな時間に? きっといつものアレね。後で見るからそこに置いておいて」
ローザリアとエリサがいなくなり捜索するべきだと騒ぎ立てたセバスの代わりにやってきたケビンは、カサンドラ宛の荷物をテーブルの上に置きながら顔色を窺った。
「なに? まだ何かあるの?」
「はい、あの。荷物とは別にお手紙も届いておりまして」
「そう、誰から?」
「ローザリ⋯⋯アが」
カサンドラの癇癪を恐れたケビンがゴニョゴニョと言葉を濁した。
「ローザリア? アレは字なんて書けないわよ! 貸して、誰の悪戯か見ればわかるはずだわ!!」
震える手で手紙を渡したケビンはカサンドラの癇癪から逃げ出した。
ローザリアからの手紙には、旅の途中で素晴らしい仲間に巡り合いとても幸せに暮らしていると書いてあった。見たこともない果物やお菓子を仲間と一緒に食べる喜びが綴られており、手が怒りで震えはじめた。
手紙の最後には、公爵家での暮らしがあったからこそほんの些細な親切でさえも喜べる、ありがとうございましたとまで書かれていた。
「何なのよ!! アイツが幸せですって! 許さない⋯⋯連れ戻して今度こそ性根を叩き直してやるわ。アレは不幸と痛みで泣き叫んでいればいいのよ!!」
カサンドラの怒りが頂点に達した時テーブルの上の箱がガタガタと揺れはじめ、暫くしてクローゼットからも小さな音が聞こえてきた。
カサンドラの怒りで吹き出した魔力を闇の魔石が吸い込んでいく。轟々と風が吹き荒れ⋯⋯⋯。
ドガーン! バリバリバリ!!
魔石に込められていた力が暴走し、部屋を粉々にしただけでなく屋敷の壁が吹き飛んだ。
ドガーン!!
カサンドラの部屋で起きた暴発にリリアーナのネックレスの石が反応した。カチカチジリジリと振動しはじめた石⋯⋯。
「なに⋯⋯どうなってるの!?」
慌ててネックレスを外そうとするが手が震えて上手く外せない。
「やだ、誰か、誰か助けて⋯⋯お母様!」
リリアーナが引きちぎろうとしていたネックレスが弾け飛び火柱が立ち上がった。火はリリアーナの部屋を焼き屋敷のあちこちからに飛び火していく。
「きゃあー、かっ、火事よぉ!!」
「誰か、助けてぇー」
「逃げろおー」
使用人達がわれ先に逃げだしカサンドラとリリアーナもその後に続いた。
魔力を失ったカサンドラが呆然と見つめる間に屋敷の火はどんどん広がっていく。
(闇の魔石が暴走したんだわ⋯⋯水の公爵家から火だなんて拙い)
「お母様⋯⋯一体何が。私は水の加護なのに、水が出ないの! お母様からいただいたネックレスから火が出るし⋯⋯ねえ、お母様、なんで!?」
「煩いわね、お黙り!! 今はそれどころじゃないのよ!」
カサンドラにはリリアーナの問いに応える余裕はなかった。
(教会が来てしまう前に魔石を何とかしなければ。それに、水の公爵家が火事なんて、どう言い訳すれば良いの)
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