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第一章
舞台は整った
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それから、月日は流れ────事後処理をようやく終えた頃、ホールデン王家とキャンベル王家の話し合いが始まろうとしていた。
とある一室で、ホールデン王家とキャンベル王家の面々が顔を合わせる。
そんな私達の間に立つように、仲裁役の神官長と立会人のオリヴァー様が佇んでいた。
あら?リナさんの姿がないわね。もしかして、寝坊でもしたのかしら?
「失礼ですが、リナ王女はどちらに?」
「あぁ、その事なんですが……実は今朝リナが体調を崩しまして……誠に勝手ながら、本日の話し合いは欠席させました」
「欠席……?」
「はい、本当に申し訳ありません」
カイル陛下はリナさんの代わりに、深々と頭を下げる。
我々ホールデン王家の人間は、彼の旋毛を見つめ、『してやられた』と眉を顰めた。
リナさんの欠席理由は、体調不良なんかじゃない……きっとキャンベル王家側が強制的に欠席させたんだわ。彼女が居ると、余計なことを口走るかもしれないから……。
本来であれば、当事者の居ない話し合いなんて、有り得ないことだけど……ここまで来て、日程をズラすにはいかない。舞台はもう整っているのだから……。
「分かりました。体調不良なら、仕方ありません。ですが────後になって、『当事者の居ない話し合いなんて、無効だ』と騒がさないで下さいね?」
「勿論ですとも、ニーナ王女。私、カイル・キャンベルの名にかけて、そのような騒ぎは起こさないと誓いましょう」
「それなら、構いません」
一応一国の王だと言うのに、カイル陛下はやけに謙った態度を取っている。
私の意思一つで婚約を破談に出来るせいか、ご機嫌取りに必死だった。
彼らに王族としてのプライドは、ないのかしらね……?
と一人呆れる中、仲裁役として馳せ参じた神官長が恐る恐るといった様子で、口を開く。
「そ、それでは────リナ王女を除く参加メンバーが揃いましたので、これよりホールデン王家とキャンベル王家の話し合いを始めさせて頂きます。僭越ながら司会進行は仲裁役の私が、そして話し合いの見届け人として……」
「証人役の私が参加させてもらうよ」
パッと手を挙げたオリヴァー様は、ゆるりと口角を上げる。
どんな時でも笑顔を絶やさない彼に感心すらする中、神官長は緊張した面持ちでこちらを見据えた。
「それでは、まず誓いの言葉と誓約書のサインを行います。両家の当主はご起立願います」
神官長の言葉に従い、両家の当主……というか、両国の国王は席を立った。
赤髪金眼の美丈夫と金髪碧眼の美男子は、互いの目をしっかり見つめる。
相手の腹を探り合う彼らは、バチバチと見えない火花を散らした。
二人とも顔は笑顔なのに、滲み出る黒いオーラを隠し切れていないわね……。
「お、おほんっ!では……ホールデン王家当主ネイト・ホールデン。貴方は本日行われる話し合いで決定したことに従い、意を唱えないと誓いますか?」
「はい、誓います」
「キャンベル王家当主カイル・キャンベル。貴方は本日行われる話し合いで決定したことに従い、意を唱えないと誓いますか?」
「はい、誓います」
「では、誓約書にサインを」
誓いの言葉を終えたお父様とカイル陛下は、おもむろにペンを手に取った。
二部ずつ用意された誓約書には、既に神官長とオリヴァー様のサインがしてある。
本来、誓約書は話し合いの後に書くものだが、極稀に『こんな結果認めない!』と駄々を捏ねる者が居るので、大事な話し合いの時は事前に書くことになっている。所謂保険みたいなものだ。
神官長は両者のサインが施された誓約書を受け取り、不備がないか確認する。
そして、その誓約書を一部ずつ両家に渡した。
「神の名のもとに誓いの儀式は終了致しました。これより、両家の話し合いを始めます。まずは─────事実確認から」
とある一室で、ホールデン王家とキャンベル王家の面々が顔を合わせる。
そんな私達の間に立つように、仲裁役の神官長と立会人のオリヴァー様が佇んでいた。
あら?リナさんの姿がないわね。もしかして、寝坊でもしたのかしら?
「失礼ですが、リナ王女はどちらに?」
「あぁ、その事なんですが……実は今朝リナが体調を崩しまして……誠に勝手ながら、本日の話し合いは欠席させました」
「欠席……?」
「はい、本当に申し訳ありません」
カイル陛下はリナさんの代わりに、深々と頭を下げる。
我々ホールデン王家の人間は、彼の旋毛を見つめ、『してやられた』と眉を顰めた。
リナさんの欠席理由は、体調不良なんかじゃない……きっとキャンベル王家側が強制的に欠席させたんだわ。彼女が居ると、余計なことを口走るかもしれないから……。
本来であれば、当事者の居ない話し合いなんて、有り得ないことだけど……ここまで来て、日程をズラすにはいかない。舞台はもう整っているのだから……。
「分かりました。体調不良なら、仕方ありません。ですが────後になって、『当事者の居ない話し合いなんて、無効だ』と騒がさないで下さいね?」
「勿論ですとも、ニーナ王女。私、カイル・キャンベルの名にかけて、そのような騒ぎは起こさないと誓いましょう」
「それなら、構いません」
一応一国の王だと言うのに、カイル陛下はやけに謙った態度を取っている。
私の意思一つで婚約を破談に出来るせいか、ご機嫌取りに必死だった。
彼らに王族としてのプライドは、ないのかしらね……?
と一人呆れる中、仲裁役として馳せ参じた神官長が恐る恐るといった様子で、口を開く。
「そ、それでは────リナ王女を除く参加メンバーが揃いましたので、これよりホールデン王家とキャンベル王家の話し合いを始めさせて頂きます。僭越ながら司会進行は仲裁役の私が、そして話し合いの見届け人として……」
「証人役の私が参加させてもらうよ」
パッと手を挙げたオリヴァー様は、ゆるりと口角を上げる。
どんな時でも笑顔を絶やさない彼に感心すらする中、神官長は緊張した面持ちでこちらを見据えた。
「それでは、まず誓いの言葉と誓約書のサインを行います。両家の当主はご起立願います」
神官長の言葉に従い、両家の当主……というか、両国の国王は席を立った。
赤髪金眼の美丈夫と金髪碧眼の美男子は、互いの目をしっかり見つめる。
相手の腹を探り合う彼らは、バチバチと見えない火花を散らした。
二人とも顔は笑顔なのに、滲み出る黒いオーラを隠し切れていないわね……。
「お、おほんっ!では……ホールデン王家当主ネイト・ホールデン。貴方は本日行われる話し合いで決定したことに従い、意を唱えないと誓いますか?」
「はい、誓います」
「キャンベル王家当主カイル・キャンベル。貴方は本日行われる話し合いで決定したことに従い、意を唱えないと誓いますか?」
「はい、誓います」
「では、誓約書にサインを」
誓いの言葉を終えたお父様とカイル陛下は、おもむろにペンを手に取った。
二部ずつ用意された誓約書には、既に神官長とオリヴァー様のサインがしてある。
本来、誓約書は話し合いの後に書くものだが、極稀に『こんな結果認めない!』と駄々を捏ねる者が居るので、大事な話し合いの時は事前に書くことになっている。所謂保険みたいなものだ。
神官長は両者のサインが施された誓約書を受け取り、不備がないか確認する。
そして、その誓約書を一部ずつ両家に渡した。
「神の名のもとに誓いの儀式は終了致しました。これより、両家の話し合いを始めます。まずは─────事実確認から」
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