「では断頭台でお会いしましょう」―― "憂う氷" 公爵令嬢ヘウレカ・アトロポスの婚約破棄から始まる仁政
婚約破棄を告げられても、彼女は平然と答えた。
「承りました。では断頭台でお会いしましょう」
公爵家嫡子、ヘウレカ・アトロポスはこの日に備えていた。10年前、婚約者となったあの日から。
王太子の暴力によるショックが、過去1000年の記憶と祝福と呪いを蘇らせたのだ。ヘウレカとしての自分と過去の自分がとけて混ざるのを覚えたが、自身の人格を見失うことはなかった。
同時に、異世界への転生と召喚を繰り返した1000年の間に、すっかり疲弊している自分がいた。
それでも兄を嫡子の座から退け、父から家長としての実権を取り上げ、領地を統括する総督の不正を糺し、貧民を搾取する商人の人身売買を摘発し、腐敗の根たる現職の中央行政機関の長である院卿にまで追及の手をゆるめることはない。
そうして、虐げられてきた弱者の解放と共に味方を増やし、国内に "自由" を芽吹かせ、枯らさぬことが「ただのヘウレカ」だった頃から変わらぬ彼女の願いだった。
そして今夜、公爵家は公国として独立する。500年前の王国設立と共に王がアトロポス家に預けた言葉、
「君、民を治むることえせずは、みづから思ひはからひて、民をば、おのおの心にまかせて世をわたらせよ」
の言葉を掲げて。
それは王太子の母であり王妃でありマルゴー侯爵でもある、ジャンヌ・ド・メドック=マルゴーの願いでもあった。
こうしてアトロポス公国は、ジャンヌをはじめ、王弟シャルル・ド・メドック=ポイヤック公爵、ヘウレカの母でありサンジュリアン家当主、アルキッペ・アトロポス=サンジュリアン侯爵ら、総勢81家貴族の支持を得て独立した。
さらに世界でも有数の港湾都市を持つアトロポス公国との友好を求め、覇道を行くアントル・ドゥー・メール帝国もこれに祝賀の使節団を送る。そこには "憂う氷" と呼ばれたヘウレカに対する私的な感情も込められていた。
一方で嵐のような暴力を望む王太子、ルイ=アンリ・ド・メドックも謀を進めていた。愚かなだけの王太子であれば、どれほど世界はたやすいものであったか。
ヘウレカは今生の自分の志を叶え、そして過去の自分自身を救うために、今日も新たに決断をする。
「政略婚、すなわち婚姻外交ほど、女性を蔑ろにするものはない。余は公王として、これを改むる道を志すものなり」
真実の愛を得ねば、彼女は永劫の転生と召喚を繰り返すのだ。
「承りました。では断頭台でお会いしましょう」
公爵家嫡子、ヘウレカ・アトロポスはこの日に備えていた。10年前、婚約者となったあの日から。
王太子の暴力によるショックが、過去1000年の記憶と祝福と呪いを蘇らせたのだ。ヘウレカとしての自分と過去の自分がとけて混ざるのを覚えたが、自身の人格を見失うことはなかった。
同時に、異世界への転生と召喚を繰り返した1000年の間に、すっかり疲弊している自分がいた。
それでも兄を嫡子の座から退け、父から家長としての実権を取り上げ、領地を統括する総督の不正を糺し、貧民を搾取する商人の人身売買を摘発し、腐敗の根たる現職の中央行政機関の長である院卿にまで追及の手をゆるめることはない。
そうして、虐げられてきた弱者の解放と共に味方を増やし、国内に "自由" を芽吹かせ、枯らさぬことが「ただのヘウレカ」だった頃から変わらぬ彼女の願いだった。
そして今夜、公爵家は公国として独立する。500年前の王国設立と共に王がアトロポス家に預けた言葉、
「君、民を治むることえせずは、みづから思ひはからひて、民をば、おのおの心にまかせて世をわたらせよ」
の言葉を掲げて。
それは王太子の母であり王妃でありマルゴー侯爵でもある、ジャンヌ・ド・メドック=マルゴーの願いでもあった。
こうしてアトロポス公国は、ジャンヌをはじめ、王弟シャルル・ド・メドック=ポイヤック公爵、ヘウレカの母でありサンジュリアン家当主、アルキッペ・アトロポス=サンジュリアン侯爵ら、総勢81家貴族の支持を得て独立した。
さらに世界でも有数の港湾都市を持つアトロポス公国との友好を求め、覇道を行くアントル・ドゥー・メール帝国もこれに祝賀の使節団を送る。そこには "憂う氷" と呼ばれたヘウレカに対する私的な感情も込められていた。
一方で嵐のような暴力を望む王太子、ルイ=アンリ・ド・メドックも謀を進めていた。愚かなだけの王太子であれば、どれほど世界はたやすいものであったか。
ヘウレカは今生の自分の志を叶え、そして過去の自分自身を救うために、今日も新たに決断をする。
「政略婚、すなわち婚姻外交ほど、女性を蔑ろにするものはない。余は公王として、これを改むる道を志すものなり」
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