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第十二章 波乱の鷹狩り

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 人気の無い森の奥まで私を連れて行くと、ドニ殿下は真っ直ぐに私を見つめられた。

「モニク嬢。父上のお許しも出たことですし、改めて申し上げます。僕の妃になっていただけませんか?」
「それは……」

 ためらう素振りでうつむきながら、私は忙しく頭を働かせた。サリアン邸に出入りして、私を犯人に仕立て上げようという彼の計画は挫折した。今、彼が私を口説くのは、アルベール様を犯人にするためだろう。アンバー殺しの夜の、アルベール様のアリバイを、私は主張し続けている。それをどうにかして崩し、あわよくば彼が犯人だと、私に証言させたいのだろう。そのために、私を籠絡しようとしているのだ。

(アンバーといい、女性を何だと思ってるのよ……)

 内心の怒りを隠し通して、私は冷静に申し上げた。

「お気持ちは、大変嬉しいのですが。お互いのことをもう少し知り合わないことには、まだお返事はできかねます」
「もう十分、知り合えていると思いますが」

 殿下が、苦笑される。確かに、以前からサリアン邸に出入りされていた彼とは、旧知の仲だ。苦しい言い訳なのは、わかっている。だが、プロポーズを受けたが最後、殿下のペースに乗せられそうな気がしたのだ。

「……まあ、仕方ありませんね。では、こうしましょう」

 ドニ殿下は、こんなことを言い出された。

「あなたを、離宮にご招待しましょう。そこで、いろいろと互いの話をしませんか」
「お母様が過ごされていたという、あの離宮ですか?」

 ミレー夫人から聞いたシュザンヌ妃の話を思い出して、私はドキリとした。

「ええ。母の死後、父上はあの離宮を封鎖なさいました。でも、僕が成長してからは、出入りすることを許してくださいました。一人になりたい時、今でもよく出かけるのですよ……。そこで、あなたと二人で過ごしたいのです」
「……わかりましたわ」

 少し思案した後、私は頷いた。大丈夫よ、と自分に言い聞かせる。私に利用価値がある限り、彼は私に危害を加えない……。

「ありがとう」

 殿下は、ほっとしたような顔をされた。

「では、また日時は改めてご連絡しますね」
「ええ。楽しみにしておりますわ」

 にこやかにお答えして、私は踵を返そうとした。だがドニ殿下は、そんな私の腕を取った。あっという間に、胸に抱き込まれる。

「つれないですね。せっかく二人きりになれたのですから、もう少しこのひとときを楽しみませんか」

 顎を捕らえられて、私は逡巡した。殿下を油断させるためには、彼に陥落したと見せかけねばならない。では、唇くらい許さないといけないのだろうか……。

(ああ、でも、やっぱり……)
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