満天の星空の元、鬼と花嫁は踊る

「――なにをしてるんだ?」
 問いかけられて振り返る。
 誰もいないはずの中庭に和服姿の青年が立っていた。新月の晩、姿を見せない月の代わりといわんばかりに輝く満天の星空の下、和傘をさした青年はにこやかに笑う。
「……なにも」
 声をかけられた幼い少女は短く答える。
 知らない人と言葉を交わしてはいけないと両親から強く言われていたことを思い出し、慌てて、自分の手で口を隠した。
 ……おに。
 あやかしの存在を知っていた。
 しかし、初めて目にした鬼の青年は美しく、すぐに逃げられなかった。
 ……こわくない?
 鬼は恐ろしい存在だと聞かされてきた。
 しかし、目の前にいる青年から悪意は感じない。
 それどころか、少女の好意的な視線を向けていた。
「そうか。お前の名前は?」
「いわない」
「変なことを言うなぁ。自分の名前を知らないわけじゃないだろ?」
 青年は笑う。
 それに対し、少女は警戒をしていた。
 ……にげなきゃ。
 頭の中ではわかっている。
 しかし、少女は鬼の青年を見入ってしまった。人とは異なる美しい見た目とは違う豪快な笑い方をする青年に、心が惹かれてしまう。
 一目惚れだった。
 四歳の少女の初恋だった。

 ――これは、あやかしに恋をした少女の話。
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