名もなき姫の手記

宮城の片隅で、忘れられた公主は“物語”を拾いはじめた。
誰にも期待されず、誰にも憎まれず、ただ静かに生きる――それが彼女の望みだった。

けれどある夜、炎がひとつの妃を奪う。
「いい人だった」
その言葉だけが残り、彼女の喜びも悲しみも、誰の記憶にも残らないまま。

ならば、私が書く。
史書が王侯将相しか記さないなら、灰に埋もれた名を、私の筆で掬い上げる。

後宮の噂、王府の旧仆の証言、花街の帳簿、そして皇帝の沈黙。
小さな糸をたどるほど、見えてくるのは――
女たちが「選べなかった」人生と、燃え尽きても消えない決意。

これは、名もなき姫が“見てしまった”物語。
そして、書かれなかった人々を、世界に残すための物語。
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