読切短編 部長のいない花見
「俺は日本一早く春を見てきた男だ」
三十二年間、全国を飛び回り続けた営業部長の口癖だった。九州で桜が開く前に商談を終え、北海道で桜が咲く頃には次の得意先へ。桜前線の先頭を、ずっと走ってきたつもりだった。
定年退職パーティのスライドに映し出されたのは、表彰でも感謝状でもなかった。彼が出張に出るたびに、部下たちが密かに開いていた——三十二年分の花見の記録だった。
笑い話のつもりで用意されたそのスライドが、男に初めて気づかせる。先頭を走り続けた自分は、ずっと桜を見ていなかったのだと。
最後の一枚に書いてあった言葉が、静かに胸に刺さる。
三十二年間、全国を飛び回り続けた営業部長の口癖だった。九州で桜が開く前に商談を終え、北海道で桜が咲く頃には次の得意先へ。桜前線の先頭を、ずっと走ってきたつもりだった。
定年退職パーティのスライドに映し出されたのは、表彰でも感謝状でもなかった。彼が出張に出るたびに、部下たちが密かに開いていた——三十二年分の花見の記録だった。
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最後の一枚に書いてあった言葉が、静かに胸に刺さる。
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