【短編041】 春の名前:名前より先に、そこにいた。
五十四年間、病院へ行かなかった男がいる。
膵臓癌のステージ四と告げられ、初めて入院した病室の窓の外には、名前も知らない山があった。
眠れない最初の夜、克己は端末のボタンを押した。病院のAIアシスタントに名前はなかった。克己はそのAIを「ハル」と呼んだ。自宅に残してきた猫と、同じ名前で。
名前を知らなくても、そこにある。
呼ばなくても、来てくれる。
克己が最後に気づいたのは、そういうことだったかもしれない。
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克己が最後に気づいたのは、そういうことだったかもしれない。
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