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初夜
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その日の夜、今夜だけはひとりで眠れると思っていた。
流石にステファン殿下でも、妻となる女性のお披露目の夜会を終えたその日の夜に私のところには来ないだろう…。
しかし…万が一のことがあるのでは?
エッタの進言もあって、私は早々に眠りにつく事にした。
早めに夕食をとり、早めに入浴を済ませ、もし万が一ステファン殿下が夜会を終えて私のところに来ても、「もう、お休みのご様子なので…。」と言われたら、さすがに自分の部屋に帰るに違いない。
今夜だけは…。
ブリトーニャ様とはこの数ヶ月を共に過ごした。
私はブリトーニャ様と対立すると思われていたアデリーナ様と共に過ごしていたから、さほど親交があったわけではない。
でも、だからこそ。
国民に知らされていないだけで、ほぼ婚約者としての立場を確立していた私を陣営に入れ込めるかどうかが、今後のブリトーニャ様が安定した立場を作れるかの鍵のはず。
私だってブリトーニャ様に睨まれたままで、社交界で生きていけるとは思ってもいない。
だからこそ、お披露目のお茶会にも夜会にも参加したかった。
ブリトーニャ様の前に跪いて和解し、今後の忠誠をお伝えすることが、伯爵家にも私にも必要だった。
端的に言えば揉めたくないのだ。
ブリトーニャ様の怒りに触れて、ただでさえ肩身の狭い今の暮らしをさらに居心地悪くはしたくはない。
なのにステファン殿下は私の参加を認めてはくれなかった。
後から割り込んできたのはブリトーニャの方だ、俺はまだ認めていない、と。
じゃあ、受け取ってしまった持参金の数々はどうするの?
大々的に国民に発表して、夜会まで開いて、この先どうするつもりなの!!と詰りたいんですけど!
ステファン殿下が私に執着すればした分だけ、私への風当たりが強くなるんですけど!
愛とか恋とか好きとか嫌いとか、そんなので結婚できないのが貴族で、その最高峰が王族で、その中でもトップにいるのが、ステファンなんです!!
って言いたい…言えないけど。
「レイチェル様。これ…なんですけど。」
「なぁに?それは。」
エッタが持ってきたのは、小さな壺だった。
「砂糖菓子みたいです。あの…ブリトーニャ様からの賜り物で。」
「そう、私にも頂けるの?」
和解…?とチラリと期待したけれど、どうやら城にいる全ての人への差し入れというかご挨拶の品のようだ。
「ええ、でも…あの…。」
歯切れの悪いことに察した。
「皆さんとは違う物なのかしら?」
「はい…。同じ砂糖菓子なんですけれど。」
詰められた砂糖菓子は、皆には白いものが配られたらしい。私のだけは黒いのだそうだ。
黒い容器や黒い砂糖菓子は葬儀の時に振舞われる。
「…わかりました。お礼状を出さないとね。」
悔しいけれど、妃となるブリトーニャ様へ非常識だと抗議できる身分ではない。
「いえ…それが死者からの礼は不要だから、と。」
「そう、わかったわ。もう下げて下さい。」
どうやらブリトーニャ様は徹底的に私を排除されるおつもりのようだ。
はあ…。耐えられない。
この先、こんな思いを幾度もしなければならないのかな…。
チクリと心が痛む。だけど悩んでも仕方ない。私がひとりでどうこう出来る事じゃない。
「…寝よ。」
と思ったのに。
その夜、まだ夜会がお開きになるよりも前に、私がベッドに滑り込むよりも前に、ステファン殿下は私の部屋にやってきた。
「…お早くないですか?」
「俺がいなくても別に構わないだろう。」
そうステファン殿下は疲れたご様子で、首元を寛げる。
んな訳がない。
ステファンの婚約披露で、王太子の婚約者だ。
「…ですが…。」
流石に今夜はマズイ。ブリトーニャ様の怒りは既に燃え始めているのだ。
さらなる燃料を投下させる訳にはいかない。
「煩い。今日は意味のないパーティー続きで俺はもう疲れた。俺はレイチェルだけがいればいい。頼む、レイチェルが俺を癒してくれ。」
そういってステファン殿下は私を寝台に引き摺り込んだのだった。
流石にステファン殿下でも、妻となる女性のお披露目の夜会を終えたその日の夜に私のところには来ないだろう…。
しかし…万が一のことがあるのでは?
エッタの進言もあって、私は早々に眠りにつく事にした。
早めに夕食をとり、早めに入浴を済ませ、もし万が一ステファン殿下が夜会を終えて私のところに来ても、「もう、お休みのご様子なので…。」と言われたら、さすがに自分の部屋に帰るに違いない。
今夜だけは…。
ブリトーニャ様とはこの数ヶ月を共に過ごした。
私はブリトーニャ様と対立すると思われていたアデリーナ様と共に過ごしていたから、さほど親交があったわけではない。
でも、だからこそ。
国民に知らされていないだけで、ほぼ婚約者としての立場を確立していた私を陣営に入れ込めるかどうかが、今後のブリトーニャ様が安定した立場を作れるかの鍵のはず。
私だってブリトーニャ様に睨まれたままで、社交界で生きていけるとは思ってもいない。
だからこそ、お披露目のお茶会にも夜会にも参加したかった。
ブリトーニャ様の前に跪いて和解し、今後の忠誠をお伝えすることが、伯爵家にも私にも必要だった。
端的に言えば揉めたくないのだ。
ブリトーニャ様の怒りに触れて、ただでさえ肩身の狭い今の暮らしをさらに居心地悪くはしたくはない。
なのにステファン殿下は私の参加を認めてはくれなかった。
後から割り込んできたのはブリトーニャの方だ、俺はまだ認めていない、と。
じゃあ、受け取ってしまった持参金の数々はどうするの?
大々的に国民に発表して、夜会まで開いて、この先どうするつもりなの!!と詰りたいんですけど!
ステファン殿下が私に執着すればした分だけ、私への風当たりが強くなるんですけど!
愛とか恋とか好きとか嫌いとか、そんなので結婚できないのが貴族で、その最高峰が王族で、その中でもトップにいるのが、ステファンなんです!!
って言いたい…言えないけど。
「レイチェル様。これ…なんですけど。」
「なぁに?それは。」
エッタが持ってきたのは、小さな壺だった。
「砂糖菓子みたいです。あの…ブリトーニャ様からの賜り物で。」
「そう、私にも頂けるの?」
和解…?とチラリと期待したけれど、どうやら城にいる全ての人への差し入れというかご挨拶の品のようだ。
「ええ、でも…あの…。」
歯切れの悪いことに察した。
「皆さんとは違う物なのかしら?」
「はい…。同じ砂糖菓子なんですけれど。」
詰められた砂糖菓子は、皆には白いものが配られたらしい。私のだけは黒いのだそうだ。
黒い容器や黒い砂糖菓子は葬儀の時に振舞われる。
「…わかりました。お礼状を出さないとね。」
悔しいけれど、妃となるブリトーニャ様へ非常識だと抗議できる身分ではない。
「いえ…それが死者からの礼は不要だから、と。」
「そう、わかったわ。もう下げて下さい。」
どうやらブリトーニャ様は徹底的に私を排除されるおつもりのようだ。
はあ…。耐えられない。
この先、こんな思いを幾度もしなければならないのかな…。
チクリと心が痛む。だけど悩んでも仕方ない。私がひとりでどうこう出来る事じゃない。
「…寝よ。」
と思ったのに。
その夜、まだ夜会がお開きになるよりも前に、私がベッドに滑り込むよりも前に、ステファン殿下は私の部屋にやってきた。
「…お早くないですか?」
「俺がいなくても別に構わないだろう。」
そうステファン殿下は疲れたご様子で、首元を寛げる。
んな訳がない。
ステファンの婚約披露で、王太子の婚約者だ。
「…ですが…。」
流石に今夜はマズイ。ブリトーニャ様の怒りは既に燃え始めているのだ。
さらなる燃料を投下させる訳にはいかない。
「煩い。今日は意味のないパーティー続きで俺はもう疲れた。俺はレイチェルだけがいればいい。頼む、レイチェルが俺を癒してくれ。」
そういってステファン殿下は私を寝台に引き摺り込んだのだった。
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