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2 話を聞いてくれた人は

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「それでね、最初のデートはワンダとエレンのデートが重なりそうだから調節するって言ってドタキャンされてしまったのよ。ワンダが長女でエレンが次女」

「残念だったね」

「生まれて初めてのデートだったのに! でね、結局エグバート卿とデートできたのは、婚約してから2年も経った16才の誕生日の翌日だったの。本当は誕生日にお祝いしてくれるはずだったのだけれど、その日はヘーゼルのデートに付き添うからって……!」


 私はハンカチを揉みながら、声を絞り出す。


「可哀相に」

「でも、それが最後になるはずだった。ヘーゼルは四女で、その時は末の妹だったから」

「三女は?」

「そうね……三女のアガサは私が知らないうちに結婚してた。15才の半分はエグバート卿が音信不通で、その間にワンダとエレンとアガサが無事に結婚してたのよ」

「そうか……君が蔑ろにされたと感じても当然だ」

「そうでしょう!?」


 日曜ミサの帰り、教会の通路の椅子で泣いていた私に声をかけてくれたのは、ひとりの紳士だった。父よりは若くて、エグバート卿よりは年上。優しそうな紳士に、気づくと私は泣きながらぶちまけていた。


、というのは?」

「……酷い話なのよ! エグバート卿はお父様の体調が悪くて早めに爵位を継いだのだけれど、その寝たきりのお父様が『娘の結婚が片付いたから再婚したい』と言い出して……再婚したの! 息子より先に! あ、エグバート卿のお母様はヘーゼルの出産で亡くなっていたの」

「なんというか、優先順位のわからない男たちだな」

「そうでしょう!?」


 名前も知らない紳士は、話のわかる紳士だ。


「エグバート卿の継母には連れ子がいて、三姉妹だったの……!」

「まさか」

「そのまさかよ! エグバート卿は、新しい妹たちの結婚に躍起になって、また私をほったらかしにしたの……!」

「可哀相に」


 本当に私、可哀相すぎ。


「それでね、三姉妹はジュリーとエスターとエマって言うんだけど、ジュリーとエスターが双子で、詳細は教えてくれなかったのだけれどとにかく婚約で揉めて、でもなんとか片付いて、エマは可愛くてすんなり侯爵夫人になったわ」

「そうか。やっと終わったね」

「ところが違うのよ……!」


 チィーーーン!
 私は洟をかんだ。


「連れ子三姉妹の結婚が片付いて安心したのか、元エグバート卿が亡くなったの」

「それは……」

「その遺言には、愛人がふたりいて『合計あと3人娘がいるから頼む』って書かれていたと言うのよ……!!」

「ろくでなしめ」

「そうなの!!」


 なんて話のわかる紳士なの!
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