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自惚れていた~執事視点~
しおりを挟む気分屋で、ツンツンした猫のようなお嬢様が、俺には心を開いてくれたと思っていたのだが……。
お嬢様はプライドが高いくせに、極度の照れ屋だ。褒めるのも褒められるのも苦手、よく知らない者からの言葉は素直に受け取らず、助言にもまず反論する。
だが、お嬢様が一番よく分かっているのだ、自分の欠点を。そして、目に見えて落ち込んでいたりする。
そんなひねくれたお嬢様との会話は面白くて、つい無遠慮なツッコミもズケズケと言ってしまう俺。
年配の執事ほどではないと思うが、淑女としての躾だって厳しくしすぎたかもしれない。
使用人ごときにあれこれ言われるのは、お嬢様的には屈辱だったのかも……。
俺は執事用にしては立派なベッドの天蓋を見上げたまま、深い溜息をつく。
お嬢様の口から出た拒絶の言葉は、思ったより俺を打ちのめしていた。
俺の前で言うのは、いつもの反発。でも、俺がいない場所で身内に言うなら、本心だろう。
眠れなくて何度も寝返りを打つ。
俺とは合わないということなのだろうな。可愛いから、つい出すぎたことを言ってしまっていた。
お嬢様が怒るのが、また可愛いんだ。
「本気で不快感を与えてしまっていたのか」
自嘲の笑みが零れる。何がバトラー大会で優勝だ。未熟にもほどがある。
それでも、せめて残された雇用期間は全うしたいな。あと少し、お嬢様を傍で見守りたい。半年もないが、美しく着飾ったお嬢様を卒業パーティーへと送り出したい。
見届ければ、きっと覚悟が決まるだろう。
お嬢様の傍から離れる覚悟が……。
俺の知らないところで、俺の手を離れて、お嬢様が大人の女性として生きていくことを容認する覚悟。
今後は他の男が、お嬢様に寄り添うことになる。
……。
俺はガバッとベッドから起き上がった。
想像しただけで、喉がカラカラになる。胸が苦しい。不整脈か?
心臓の辺りを抑えていると、目の端に灯りを捉えた。
扉の下から微かに柔らかい光が入り込み、影がゆらりと動いた。俺はたまたまその一瞬を目の当たりにしたのだ。
「──?」
ガウンを、羽織り、ランプを手に取ろうとしてやめる。何も持たないまま、そっと廊下に出た。
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