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両家の顔合わせ
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王都ロイヤルホテルは、古くからある格式高いホテルだ。
温泉保養地を経て王都に到着した両親に合わせ、お兄様たちはそちらに居を移した。
休日になるのを待って、私も久々にお父様とお母様に会うため、制服のままホテルに行こうとした。ところが、ネイサンから止められてしまう。そして、よそ行きのワンピースを用意された。
「ルシール様の親族も、到着されたようです」
最上階のペントハウスは、何度か泊まったことのあるファミリースイートよりずっと間取りが広く、ホテルスタッフが世話してくれるので使用人要らず。
タウンハウスよりよほど豪華だった。
おどろいたことに、東方辺境伯御一行は男所帯で、しかも全員鉄面皮なの。ご子息、五人なのか……。ルシールさんは物心着く前に、お母さまを亡くしているのだとか。
「それにしても、イケメンぞろいじゃない! メイちゃん、お嫁に貰ってもらったら? ね? あなた」
両家の挨拶が済むと、お母様が朗らかにそう言った。
私のお母さまは天真爛漫で、いつも笑顔を絶やさない愛想のいい女性だ。
去年里帰りした時より若返ってない? 肌ツヤがやたらいいんだけど……。温泉効果かしら、女っぷりが上がっている。
「そうだな、まだ卒業パーティーの相手が決まっていないなら、頼んでみたらどうだ? 親兄弟でなければ同伴していいんだろ?」
そう言ったお父様は素っ気ないというか、無愛想。一見怒っているように見えるけど、でもテーブルの下で、お母様の手を握りにいったのが分かる。
「俺に似た性格じゃ、たぶん相手から申し込んでくることはないだろうし……」
小さく付け足され、ムッとなる。一言多いお父様。
「パパ! そんなことないわ、まだ大丈夫。素敵な王子様が現れるわよ。メイちゃん、顔は私にそっくりで可愛いいんだから!」
お母様……それって、自分を可愛いって言っているようなものでは?
「しかし、やたらと縛るしな……」
お父様はまたボソッと呟いた。
かつて失言王と言われた──お母様談──彼は、普段は無口なくせに、いざ口を開くと考え無しに言葉を発してしまう不器用な人だ。
そう……私、中身はこの父に似たのよね。
「メイちゃんを傷つけるようなことを言うパパは嫌いよ」
「いや、そうではなくてだな。メイベルはもう結婚なんてしないで、我々とずっと──」
「まあ~っ! 私とメイちゃんどっちが好きなの!」
めんどくさっ。イラっとするわ。父様は素直じゃないし母様は甘ったれだし。イチャつくなら両家の顔合わせ以外でやりなさいよ!
「ごめん」
お母様はモゴモゴと謝るお父様にふんわり笑って、気を取り直してからターンテーブルを回す。
呆れ果て、食べることに専念しようとゴマ団子を取りかけていた私の前から、皿が消えた。
お母様はお父様にフカヒレのスープをよそってあげると、やっと円卓に他の人たちがいることに気づいたようだった。
苦笑いしているお兄様。無表情に見守るルシールさん初め、東方辺境伯一同。あちらの親族……全員背中に鉄板でも入れているのかってほど姿勢がいい。
「あ……あら、ごめんなさい。皆さんもどうぞ」
顔を赤くしながら、恥ずかしそうにターンテーブルを戻した。今度は小籠包を取ろうとしていた私の目の前から蒸籠が消える。
「いただきます。それにしても、今週末の式まで滞りなく進みそうで、一安心だ」
ルシールさんの父親が、表情を変えずにそう言った。え、私が渋ってること、もしかして知っている? お、怒ってるわけじゃないわよね?
「ご子息が全て手配してくれたと、ルシールから聞きました」
お兄様が緊張して背筋を伸ばす。お兄様、鉄板族の仲間入りしているわ……。
うちのお父様がこれまた無愛想に、
「本当に、娘さんをこちらの領地でお預かりしてよろしいのですか?」
と確認した。
「娘さんはたいそう優秀な士官候補生だとか。東方の国境防衛に、ルシール嬢の力は必要なのではありませんか?」
お父様、男相手だと普通にお話しできるのよ。女子にだけ変なこと言うコミュ障、キモい。
「ですから、そちらでも重宝されると信じております」
東方辺境伯はそうサラッと言うと、アワビのムニエルを取った。
「娘の幸せが一番なので」
──やだ、堂々としていて貫禄ある。無愛想ぶりではうちのお父様に負けていないけど、すごくカッコイイ。
ルシールさんと同じ色素の彼は、スッと目を細めて箸の先のアワビを見つめる。
「あと、アワビって女性のヴァギ──」
ドスッと音がして、うっとうめき声がした。東方辺境伯は脇腹を押さえて脂汗を浮かべている。でも顔は無表情。
「失礼。父は、ローレンス陛下の竹馬の友でして」
ルシールさんが静かに述べた。お母様が首を傾げる。
「陛下とボディブローをし合う仲でしたの?」
今の陛下が格闘技好きだとか、聞いたことないけどな……。
温泉保養地を経て王都に到着した両親に合わせ、お兄様たちはそちらに居を移した。
休日になるのを待って、私も久々にお父様とお母様に会うため、制服のままホテルに行こうとした。ところが、ネイサンから止められてしまう。そして、よそ行きのワンピースを用意された。
「ルシール様の親族も、到着されたようです」
最上階のペントハウスは、何度か泊まったことのあるファミリースイートよりずっと間取りが広く、ホテルスタッフが世話してくれるので使用人要らず。
タウンハウスよりよほど豪華だった。
おどろいたことに、東方辺境伯御一行は男所帯で、しかも全員鉄面皮なの。ご子息、五人なのか……。ルシールさんは物心着く前に、お母さまを亡くしているのだとか。
「それにしても、イケメンぞろいじゃない! メイちゃん、お嫁に貰ってもらったら? ね? あなた」
両家の挨拶が済むと、お母様が朗らかにそう言った。
私のお母さまは天真爛漫で、いつも笑顔を絶やさない愛想のいい女性だ。
去年里帰りした時より若返ってない? 肌ツヤがやたらいいんだけど……。温泉効果かしら、女っぷりが上がっている。
「そうだな、まだ卒業パーティーの相手が決まっていないなら、頼んでみたらどうだ? 親兄弟でなければ同伴していいんだろ?」
そう言ったお父様は素っ気ないというか、無愛想。一見怒っているように見えるけど、でもテーブルの下で、お母様の手を握りにいったのが分かる。
「俺に似た性格じゃ、たぶん相手から申し込んでくることはないだろうし……」
小さく付け足され、ムッとなる。一言多いお父様。
「パパ! そんなことないわ、まだ大丈夫。素敵な王子様が現れるわよ。メイちゃん、顔は私にそっくりで可愛いいんだから!」
お母様……それって、自分を可愛いって言っているようなものでは?
「しかし、やたらと縛るしな……」
お父様はまたボソッと呟いた。
かつて失言王と言われた──お母様談──彼は、普段は無口なくせに、いざ口を開くと考え無しに言葉を発してしまう不器用な人だ。
そう……私、中身はこの父に似たのよね。
「メイちゃんを傷つけるようなことを言うパパは嫌いよ」
「いや、そうではなくてだな。メイベルはもう結婚なんてしないで、我々とずっと──」
「まあ~っ! 私とメイちゃんどっちが好きなの!」
めんどくさっ。イラっとするわ。父様は素直じゃないし母様は甘ったれだし。イチャつくなら両家の顔合わせ以外でやりなさいよ!
「ごめん」
お母様はモゴモゴと謝るお父様にふんわり笑って、気を取り直してからターンテーブルを回す。
呆れ果て、食べることに専念しようとゴマ団子を取りかけていた私の前から、皿が消えた。
お母様はお父様にフカヒレのスープをよそってあげると、やっと円卓に他の人たちがいることに気づいたようだった。
苦笑いしているお兄様。無表情に見守るルシールさん初め、東方辺境伯一同。あちらの親族……全員背中に鉄板でも入れているのかってほど姿勢がいい。
「あ……あら、ごめんなさい。皆さんもどうぞ」
顔を赤くしながら、恥ずかしそうにターンテーブルを戻した。今度は小籠包を取ろうとしていた私の目の前から蒸籠が消える。
「いただきます。それにしても、今週末の式まで滞りなく進みそうで、一安心だ」
ルシールさんの父親が、表情を変えずにそう言った。え、私が渋ってること、もしかして知っている? お、怒ってるわけじゃないわよね?
「ご子息が全て手配してくれたと、ルシールから聞きました」
お兄様が緊張して背筋を伸ばす。お兄様、鉄板族の仲間入りしているわ……。
うちのお父様がこれまた無愛想に、
「本当に、娘さんをこちらの領地でお預かりしてよろしいのですか?」
と確認した。
「娘さんはたいそう優秀な士官候補生だとか。東方の国境防衛に、ルシール嬢の力は必要なのではありませんか?」
お父様、男相手だと普通にお話しできるのよ。女子にだけ変なこと言うコミュ障、キモい。
「ですから、そちらでも重宝されると信じております」
東方辺境伯はそうサラッと言うと、アワビのムニエルを取った。
「娘の幸せが一番なので」
──やだ、堂々としていて貫禄ある。無愛想ぶりではうちのお父様に負けていないけど、すごくカッコイイ。
ルシールさんと同じ色素の彼は、スッと目を細めて箸の先のアワビを見つめる。
「あと、アワビって女性のヴァギ──」
ドスッと音がして、うっとうめき声がした。東方辺境伯は脇腹を押さえて脂汗を浮かべている。でも顔は無表情。
「失礼。父は、ローレンス陛下の竹馬の友でして」
ルシールさんが静かに述べた。お母様が首を傾げる。
「陛下とボディブローをし合う仲でしたの?」
今の陛下が格闘技好きだとか、聞いたことないけどな……。
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