【約束の還る海】――性という枷。外れ者たちは、ただ一人の理解者を求め合う。
●読者による紹介文
美しい創作神話と、人間ドラマの世界へ旅立て。
これぞ「令和のファンタジー」。今こそ評価されるとき。
現代の若者に向けた幻想文芸。自分は何者か、どう生きればよいのか。過去と現在に向き合いながら成長する青年たちとその絆を、壮大な世界観を背景に描いた傑作。
●あらすじ
海で拾われ考古学者の息子として育った青年レナートは、発掘調査の帰りに海を漂流する美貌の若者を救出する。身分を明かしたがらない若者に、レナートは幼少の頃より惹かれてやまない雷神の名、『リオン』を充てがった。リオンは、次第に心を開き始める。
しかし、太古に滅びたはずの文明が、レナートを呼び続けていた。彼の命のみを求める、古代の遺物。やがて蘇った人類に対する嫌悪感が、快活だったレナートを襲った。
魂に刻まれた遥か遠い記憶と約束。生まれてきた意味。生かされた意味。出会い、別れる意味。自分は何者か。
かれらが発見する自己の姿と、受容のための物語。
【登場人物】
◇本編より
レナート:明朗快活な青年。幼少期の記憶が所々脱落している。
リオン:海を漂流しているところをレナートらによって救けられた、中性的な美貌の若者。
マリア:レナートの義理の姉。年が離れているため、母親代わりでもあった。大衆食堂を営んでいる。
セルジオ:レナートを拾い育てた、考古学者。メリウス王の足跡を探している。
ディラン:セルジオが率いるチームの一員。レナートの兄貴分。
アンドレーア・アルベルティーニ:若きメレーの神官。
テオドーロ・アルベルティーニ:メレーの神官長。セルジオの旧友。
◇メレーの子より
メリウス:賢神メレーと神官アンドローレスとの間に生まれた半神半人。最初の王。
ピトゥレー:荒ぶる神とされる海神。
リヨン:雷神。
アウラ:リヨンの子である半神半人。メリウスの妻。
ヴァイタス:メリウスの後に誕生した、武力の王。
メレーの子後編3話、この場面がとくに気に入っています。2人の英雄の対比が素晴らしい。ヴァイタスは、いわゆる典型的な英雄の姿で、こちらこそがファンタジーの主人公として扱いやすいであろうことが想像できます。しかし、この作品・章の主人公はメリウスなのですよね。剣も魔法も扱わない、しかし超常的な半神という存在。彼の武器は何者をも許す寛大で強い心であるということが、このヴァイタスとの対峙によって克明に浮き上がる。なんともすがすがしい心地になります。武力で救う英雄というのはある意味手っ取り早い手段ですが、心で救う英雄は負の連鎖を断ち切ることができる。この愛の英雄を描ききった作者様の技量と精神性に感服する限りです。
読後の余韻が心地良いですね。
美しい描写と、ハイファンタジーのジャンルを冠するにふさわしい世界観と高尚さは、私が求めていたファンタジー小説でした。
流行りなんてものはどうでもいい、自分の物語を描くのだ。という作家のプライドを感じます。
そこには一般文芸で描かれるような高度な人間ドラマがありつつも、ファンタジーならではの設定が生きております。そして、どこかノスタルジックな感情を覚えました。
古き良き、とも言い換えられる90年代に流行ったような「定番」「王道」というものでもない、令和にふさわしい作風。
また、キャラクターもストーリーも、単純なエンタメ設定ではなく、むしろ現代人の心に寄り添い、人によっては深く刺さるであろうものが含蓄されていますね。私も非常に考えさせられつつ、またキャラクターに感情移入しつつ読ませていただきました。
なにより、タイトルのセンスが良い。読んでみたくなるタイトルです。
正直、近年は特に似たりよったりの作品が多いと感じてしまい、ウェブ小説や商業で出版されるファンタジーのジャンルに分類される作品からは距離をとっていました。
しかし、このような作品があるのだと知ることができ、ウェブ小説も日本のファンタジーも、まだ捨てたものではないのだなと考えを改めました。
素晴らしい作品でした。今を悩む若者たちにこそ読んでもらいたいと、老いぼれが老婆心をもって周りに勧めて回りたいと思った。そんな作品は本当に久々です。