冠なき灯守(かんなきともり) ―迷宮の片隅で、消えてはならない灯りを守る少年は、七つの大迷宮をめぐり、その先へ―
迷宮の灯りを守る少年が、失われゆく道の先で、誰かの帰る道になっていく。
七つの巨大迷宮が存在する世界。帝国東部の迷宮都市アルネスには、七大迷宮のひとつ《エルナディア大迷宮》が口を開けている。迷宮は探索者たちに富と名声をもたらす一方、数多くの命を奪ってきた。
十五歳の少年ルアンは、そんな迷宮で働く《迷宮灯守》の見習いだった。彼の仕事は、探索者たちが迷宮から生きて帰るための道標《導灯》を点検し、修理すること。魔物を倒す英雄でもなければ、優れた魔術師でもない。そもそもルアンの身体には、人が生まれながらに持つ魔力の通り道《紋脈》が存在しなかった。
魔力はある。けれど、それを流す道がない。だからルアンは、自分で道を作り始める。胸から肩へ。肩から腕へ。そして、いつか指先へ。何度失敗しても、ルアンはただ一言を繰り返す。
「…もう一回。」
やがて彼は、与えられた紋脈ではなく、自らの意思で魔力の道を築く《自脈》という独自の力を身につけていく。
迷宮回収士の少女ミレーナ・トーヴァ。天性の才を持つ槍使いセイン・ガルド。治癒術の名門に生まれながら、人を癒すたびにその痛みを自らも感じてしまう少女フィナ・メルティア。そして、旅の学者を名乗る謎めいた男エド。最初は偶然すれ違うだけだった彼らは、迷宮で起こる数々の出来事を通して少しずつ互いを知り、やがて同じ道を歩き始める。
一方、七大迷宮では、誰にも気づかれないほど小さな異変が起こり始めていた。消えるはずのない導灯。変化する迷宮の構造。本来いるはずのない階層へ現れる魔物。そして、人類がいまだ一度も到達したことのない最深部。
古くから七つの土地に残る言葉がある。
「迷宮は、征するものではない。」
誰もが、昔の探索者たちが残した戒めだと思っていた。だがその言葉には、別の意味があった。
これは、世界最強の英雄の物語ではない。迷宮の片隅で一本の灯りを守っていた、弱い少年の物語。働き、失敗し、仲間と出会い、自らの力を一から作り上げながら、やがて七つの迷宮と世界そのものを巡る運命へ歩いていく、一人の少年の長い成長譚である。
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