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聖女の旅立ち

6.向かう場所

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「暇だろうから、これから行く場所の話をしていようか。
 ミサトは後でカイン兄さんから聞くだろうし。」

「あぁ、聞きたい。どんな場所に行くの?」

広げてある地図の赤い丸で囲んでいるところを指さし、説明をしてくれる。
どうやらこの国の中では北側にある領のようだ。

「まず、この国の貴族で領地を持っているのは、
 王家、公爵、侯爵、伯爵、子爵まで。
 その領地の領主代理を代々務めている家は男爵。
 平民から領主代理になった者は一代男爵という爵位になる。」

「全部の貴族が領地を持っているわけじゃないんだ。」

「うん。それで、瘴気が発生する場所なんだけど、
 平民が苦しんでいる領地から発生しやすいとされている。
 あくまで推測だけどね。
 さっき、平民は領地を勝手に移動できないと話しただろう?
 平民はその領地の財産として数えられているからだ。」

「財産…うーん。労働力としてってことかな。
 なんか財産って言われると奴隷みたいだね。」

財産って言われると物みたいでちょっと嫌だな。
向こうの世界と同じように平等だとか言い出す気はないけれど。
思わず顔をしかめてしまう。

「あぁ、向こうの世界は貴族や平民って無いんだよね。
 そう思ってしまうのも仕方ない。
 大丈夫、平民を大事にしない貴族はいないよ。
 ほら、平民が苦しんでいると瘴気が発生しやすいって言っただろう?
 その考えが根付いているから平民は立場は弱いけど虐げられているわけじゃない。
 奴隷という感じではないから安心して?」

「そっか。大事にされているんだ。」

「うん、そういうわけだから、一番最初に発生する領って不名誉でもあるんだよね。
 ここが今向かっている場所。キリアル子爵家。
 国の中では北側に位置するため、少し涼しい気候だ。
 主な栽培は小麦。あとは狩猟で生活している。
 瘴気が発生したのはここ数年の天候不良で小麦の生産が落ちている。
 そのために平民の生活が苦しくなっているんだろう。
 子爵家の領地の三分の一が森なのだが、その森の中で瘴気が発生したらしい。」

「森の中なんだ。
 瘴気って具体的にどんな感じのものなの?
 前に瘴気のせいで魔獣が発生するって言ってたのは覚えているけど。」

「まず、にごった水のようなものが地面に溜まり始める。
 この水から黒っぽい気体が発生する。これが瘴気。
 瘴気はだんだん形を変えていくんだけど、
 黒っぽい気体だったのが粘っこい物質に変わると厄介なんだ。」

粘っこい物質…うーん。聞いているだけでも気持ち悪そう。

「人に取りつくと魔獣が出てくるんだっけ?」

「そう。近くにいる人間の口や鼻、目や耳から中に入っていく。
 そのまま体内で魔獣を生み出し、腹を食い破って出てくる。」

「う…それは怖すぎる。
 予防とかできないの?」

瘴気を消すのが聖女の仕事なのはわかるけど、さすがに怖い。
襲ってくるようなものには近寄りたくないなぁ。
想像すると鳥肌がたってしまい、両腕をさすっていたらキリルに抱きしめられた。
私を安心させるように、ゆっくりと頭を撫でてくれる。

「大丈夫。ユウリは俺がちゃんと守るから。
 それに、俺たちや隊員たちには入って来れない。
 消そうとするとぶつかって抵抗してくることはあるけどね。
 神力を持っている者の身体には入れないらしい。
 だが、ほとんどの平民は神力どころか魔力も少ない。
 何も抵抗できずに取りつかれてしまう。」

「そっか…神力か。
 あれ、ねぇ。隊員さんたちって平民もいるんだよね?」

「いるよ?
 平民で隊員に選ばれるだけの魔力があると判定されたら、
 ほとんどの者が神官宮に入る。
 その時点で平民とは言えなくなるけどね。」

「そうなんだ。ねぇ、平民の女性は魔力ないの?
 貴族の女性が働かないというのはわからなくもないけど、
 平民の女性は働くよねぇ?
 魔力を持つのは男性だけなの?」

そう、神官宮には女性がいない。
ジェシカさんも手伝いはするけど、もともとは神官宮の人じゃないらしいし、
この世界の人は男の人しか魔力ないとか、そんなわけはないよね?

「いや、平民でも魔力を持つ女性はいるよ?
 もしかしたら男性よりも多いんじゃないかな。」

「なんで神官宮に女性がいないの?」

「………それは……昔、女性隊員に襲われた隊長がいて。」

「は?」

女性隊員に襲われる?
え?隊長って清くなきゃダメなんじゃないの!?
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