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水無瀬さん
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「なるほど、それで白峰さんもこのお店で働いてるのかぁ」
そんな言葉を口にして、目の前でふむふむと納得げに頷いているのは水無瀬さんだ。
ついさっきこのお店にやってきた彼女にあらぬ誤解をされないようにと、俺は白峰がここで働くことになった経緯と、そして一応茜のことについても彼女に話しをしたのだ。
「それにしても、なんでアンタみたいなダメ男に女の子の知り合いばっかりできるんかが意味わからんわ」
「おい茜、それはさすがに言い過ぎだろ」
隣から不機嫌な声音でそんな失礼なことを言ってくる茜に対して、俺はすかさずツッコミを入れる。
すると目の前にいる水無瀬さんがクスクスと笑った。
「やっぱり幼なじみなだけあって、萩原くんと夏木さんって息ぴったりなんだね」
「「いや別にそんなことないから」」
思わず二人揃ってそんな言葉を口にすれば、「ほらやっぱり!」と水無瀬さんがまたも愉快気に喉を鳴らす。
「でも羨ましいなぁ、仲良しの友達や幼なじみと一緒にこんなオシャレなところで働けるなんて」
青い瞳を輝かせながら無邪気な声でそんなことを言う水無瀬さん。
ほほう、このお店のことをオシャレだとわかってくれるとはなかなか素晴らしい感性をお持ちのようですね。……ただし、白峰が友達という部分については断固否定させてもらいます。
そんなことを心の中で思っていたら、「べつに友達じゃないわよ」と隣から白峰が冷たい口調で俺の気持ちを代弁してくれていた。
「そういえば萩原くん、あの椅子ってこのお店にあるんだよね?」
「あの椅子って……ああ、アリンコチェアのことか」
ほんと白峰のやつ愛想ないなと思っていたら、ふと水無瀬さんがそんなことを尋ねてきたので俺は彼女の方を見る。
そして「もちろんありますとも!」とスイッチが切り替わったように張り切って答えると、水無瀬さんを連れて店内を進んでいく。
「ほらこれ、水無瀬さんが持ってる椅子と同じ形だろ」
「ほんとだ! しかもこの椅子ってベージュとかグレーの色もあるんだね」
何やら興味深そうな声でそんな言葉を口にする水無瀬さん。そんな彼女が見つめる先には、丸みを帯びた背もたれと細く綺麗なスチールレッグが印象的な椅子たちがダイニングテーブルに合わせて展示されていた。
北欧デザイナー、アルネヤコブセンの不屈の名作『アリンコチェア』。
正式名称3101チェアと呼ばれるこの椅子は、かつてアルネヤコブセンが自身で建築した製薬会社の食堂に使うために作られたという椅子で、成形合板と呼ばれる当時としては珍しい素材が使用されている。
ちなみになぜアリンコチェアと呼ばれているかというと、その名の通り見た目のフォルムがアリンコのような可愛らしい形をしているからだ。
「当初ヤコブセンがデザインした時は三本脚のタイプしかなかったんだけどこれがまたデザイン的にも機能的にめちゃくちゃ良くてさ――」
気づけば俺はぺちゃくちゃとアリンコチェアの魅力について水無瀬さんに向かって熱く語ってしまっていた。
けれども彼女はというと嫌な顔一つせずに「なるほど!」とか「そんな意味があったんだ」とこちらが心地良くなるような聞き方をしてくれている。
やはりこの子の愛想の良さは素晴らしいものがあるなと感心してそのまま話しを続けようとしたら、視界の隅で茜と白峰がぞっとするほど冷たい視線を向けてきていることに気づいてしまい、結局俺はお口をチャックすることになってしまったのだった。
そんな言葉を口にして、目の前でふむふむと納得げに頷いているのは水無瀬さんだ。
ついさっきこのお店にやってきた彼女にあらぬ誤解をされないようにと、俺は白峰がここで働くことになった経緯と、そして一応茜のことについても彼女に話しをしたのだ。
「それにしても、なんでアンタみたいなダメ男に女の子の知り合いばっかりできるんかが意味わからんわ」
「おい茜、それはさすがに言い過ぎだろ」
隣から不機嫌な声音でそんな失礼なことを言ってくる茜に対して、俺はすかさずツッコミを入れる。
すると目の前にいる水無瀬さんがクスクスと笑った。
「やっぱり幼なじみなだけあって、萩原くんと夏木さんって息ぴったりなんだね」
「「いや別にそんなことないから」」
思わず二人揃ってそんな言葉を口にすれば、「ほらやっぱり!」と水無瀬さんがまたも愉快気に喉を鳴らす。
「でも羨ましいなぁ、仲良しの友達や幼なじみと一緒にこんなオシャレなところで働けるなんて」
青い瞳を輝かせながら無邪気な声でそんなことを言う水無瀬さん。
ほほう、このお店のことをオシャレだとわかってくれるとはなかなか素晴らしい感性をお持ちのようですね。……ただし、白峰が友達という部分については断固否定させてもらいます。
そんなことを心の中で思っていたら、「べつに友達じゃないわよ」と隣から白峰が冷たい口調で俺の気持ちを代弁してくれていた。
「そういえば萩原くん、あの椅子ってこのお店にあるんだよね?」
「あの椅子って……ああ、アリンコチェアのことか」
ほんと白峰のやつ愛想ないなと思っていたら、ふと水無瀬さんがそんなことを尋ねてきたので俺は彼女の方を見る。
そして「もちろんありますとも!」とスイッチが切り替わったように張り切って答えると、水無瀬さんを連れて店内を進んでいく。
「ほらこれ、水無瀬さんが持ってる椅子と同じ形だろ」
「ほんとだ! しかもこの椅子ってベージュとかグレーの色もあるんだね」
何やら興味深そうな声でそんな言葉を口にする水無瀬さん。そんな彼女が見つめる先には、丸みを帯びた背もたれと細く綺麗なスチールレッグが印象的な椅子たちがダイニングテーブルに合わせて展示されていた。
北欧デザイナー、アルネヤコブセンの不屈の名作『アリンコチェア』。
正式名称3101チェアと呼ばれるこの椅子は、かつてアルネヤコブセンが自身で建築した製薬会社の食堂に使うために作られたという椅子で、成形合板と呼ばれる当時としては珍しい素材が使用されている。
ちなみになぜアリンコチェアと呼ばれているかというと、その名の通り見た目のフォルムがアリンコのような可愛らしい形をしているからだ。
「当初ヤコブセンがデザインした時は三本脚のタイプしかなかったんだけどこれがまたデザイン的にも機能的にめちゃくちゃ良くてさ――」
気づけば俺はぺちゃくちゃとアリンコチェアの魅力について水無瀬さんに向かって熱く語ってしまっていた。
けれども彼女はというと嫌な顔一つせずに「なるほど!」とか「そんな意味があったんだ」とこちらが心地良くなるような聞き方をしてくれている。
やはりこの子の愛想の良さは素晴らしいものがあるなと感心してそのまま話しを続けようとしたら、視界の隅で茜と白峰がぞっとするほど冷たい視線を向けてきていることに気づいてしまい、結局俺はお口をチャックすることになってしまったのだった。
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