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マグカップ
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無事に水無瀬さんの机も綺麗にすることができた俺は、そのまますぐにお店に戻ろうかと思ったのだが、「良かったらお茶でも飲んでいって」という彼女の気遣いからしばしこの部屋に居座ることになった。
「はぁ、ほんまアンタは可愛い女の子相手やったらすぐにカッコ付けたがるんやから」
水無瀬さんが飲み物を用意しに部屋を出て行った直後、茜が心底呆れた声でそんな言葉を漏らす。
「おいそれはお前の勘違いだろ。俺はいつも通り家具のメンテナンスをしただけだ」
「よー言うわ。なにが『すぐ家に飛んでいくから』やねん。アンタがこの家にただ来たいだけやろ」
「失敬な! 俺はコンシェルジュのスタッフとして当たり前のことを言っただけで下心なんて一切ない!」
こちらが紳士であることをいくら主張しても、茜はあーだこーだと文句を言い返してきて聞き入れようとしてくれない。
なのでここは教え子からの援護射撃も必要かと思い「白峰からも何か言ってやってくれよ」と頼んだら、「たしかに学校でも水無瀬さんとよく話してるものね」と何故か俺の方が射撃されてしまった。
「ほら見てみい! やっぱアンタがあの子と仲良くしたいだけやん」
「いやだから俺は……」
このままでは何を言ったところで分が悪いと思った俺は「ちょっとトイレに行ってくる」と言って立ち上がると、そのまま逃げるように部屋を出た。
……とりあえず水無瀬さんの手伝いでもするか。
廊下に出てほっと一息ついた後、俺はそんなことを思うと飲み物を用意してくれている水無瀬さんがいる一階へと向かった。
そしてリビングへと足を踏み入れると、キッチンに立って作業をしている水無瀬さんの姿が見える。
「あ、萩原くん。どうしたの?」
俺が来たことに気づき、くるりとこちらを振り返って笑顔を浮かべる水無瀬さん。
あーやっぱりこの子は愛想の良さは素晴らしいな、としみじみと感じていたのだが、茜にまた怒られるとやっかいなのですぐに我に戻った。
「いやその、俺も何か手伝おうと思って」
俺は動揺を誤魔化すように頭をかきながらそう言うと水無瀬さんの隣に並ぶ。
「ごめんね、なんか気を遣わせちゃって」
「いやいいってこれぐらい」
笑いながらそう言って手元に視線を移せば、キッチンには青や茶色など色とりどりのマグカップが並べれていた。
これってもしかして……。
その見覚えのあるマグカップのデザインに、俺の中でまたもいつものスイッチが入ってしまった。
「実を言うとさ、前からずっと好きだったんだよな」
「え……えぇっ⁉︎」
俺の発言に、何やら驚きの声を漏らす水無瀬さん。何故だろう、予想していた以上にリアクションが高いぞ?
きっと俺が家具だけでなく食器にも詳しいことに驚いているんだなと思いながら、俺は青いマグカップを手に取るとそれを眺めながら言葉を続ける。
「初めて出会った時から見た目が綺麗だなって思ってたんだけど、知れば知るほど中身も美しいしってことがわかったし」
「う、美しいってそんな……」
「なんかこうずっと触れていたくなるっていうか撫でたくなるというか」
「ひょえっ!?」
俺の言葉に、水無瀬さんがまた一段とオーバーなリアクションを取ってくる。
「とくにこの持ち手のディティールとかほんともう最高だよな」
「も……持ち手?」
先ほどまでのハイテンションなリアクションからは一変、今度はやけにキョトンとした声で水無瀬さんが聞き返してきた。
そんな彼女のリアクションに少しばかりの違和感を感じながらも「ああ」と大きく頷くと、俺はマグカップを高らかに掲げた。
「これも北欧の名作の一つだと思うよ、イッタラのマグカップ!」
「……」
思わず声を大にしてそんなことを叫べば、何故か呆然とした表情で俺のことを見つめてくる水無瀬さん。
あれれ? ここは一緒にテンション上げてくれるところだと思ったんだけど……って、なんでそんなに恥ずかしそうに顔が真っ赤になっちゃってるの?
「はぁ、ほんまアンタは可愛い女の子相手やったらすぐにカッコ付けたがるんやから」
水無瀬さんが飲み物を用意しに部屋を出て行った直後、茜が心底呆れた声でそんな言葉を漏らす。
「おいそれはお前の勘違いだろ。俺はいつも通り家具のメンテナンスをしただけだ」
「よー言うわ。なにが『すぐ家に飛んでいくから』やねん。アンタがこの家にただ来たいだけやろ」
「失敬な! 俺はコンシェルジュのスタッフとして当たり前のことを言っただけで下心なんて一切ない!」
こちらが紳士であることをいくら主張しても、茜はあーだこーだと文句を言い返してきて聞き入れようとしてくれない。
なのでここは教え子からの援護射撃も必要かと思い「白峰からも何か言ってやってくれよ」と頼んだら、「たしかに学校でも水無瀬さんとよく話してるものね」と何故か俺の方が射撃されてしまった。
「ほら見てみい! やっぱアンタがあの子と仲良くしたいだけやん」
「いやだから俺は……」
このままでは何を言ったところで分が悪いと思った俺は「ちょっとトイレに行ってくる」と言って立ち上がると、そのまま逃げるように部屋を出た。
……とりあえず水無瀬さんの手伝いでもするか。
廊下に出てほっと一息ついた後、俺はそんなことを思うと飲み物を用意してくれている水無瀬さんがいる一階へと向かった。
そしてリビングへと足を踏み入れると、キッチンに立って作業をしている水無瀬さんの姿が見える。
「あ、萩原くん。どうしたの?」
俺が来たことに気づき、くるりとこちらを振り返って笑顔を浮かべる水無瀬さん。
あーやっぱりこの子は愛想の良さは素晴らしいな、としみじみと感じていたのだが、茜にまた怒られるとやっかいなのですぐに我に戻った。
「いやその、俺も何か手伝おうと思って」
俺は動揺を誤魔化すように頭をかきながらそう言うと水無瀬さんの隣に並ぶ。
「ごめんね、なんか気を遣わせちゃって」
「いやいいってこれぐらい」
笑いながらそう言って手元に視線を移せば、キッチンには青や茶色など色とりどりのマグカップが並べれていた。
これってもしかして……。
その見覚えのあるマグカップのデザインに、俺の中でまたもいつものスイッチが入ってしまった。
「実を言うとさ、前からずっと好きだったんだよな」
「え……えぇっ⁉︎」
俺の発言に、何やら驚きの声を漏らす水無瀬さん。何故だろう、予想していた以上にリアクションが高いぞ?
きっと俺が家具だけでなく食器にも詳しいことに驚いているんだなと思いながら、俺は青いマグカップを手に取るとそれを眺めながら言葉を続ける。
「初めて出会った時から見た目が綺麗だなって思ってたんだけど、知れば知るほど中身も美しいしってことがわかったし」
「う、美しいってそんな……」
「なんかこうずっと触れていたくなるっていうか撫でたくなるというか」
「ひょえっ!?」
俺の言葉に、水無瀬さんがまた一段とオーバーなリアクションを取ってくる。
「とくにこの持ち手のディティールとかほんともう最高だよな」
「も……持ち手?」
先ほどまでのハイテンションなリアクションからは一変、今度はやけにキョトンとした声で水無瀬さんが聞き返してきた。
そんな彼女のリアクションに少しばかりの違和感を感じながらも「ああ」と大きく頷くと、俺はマグカップを高らかに掲げた。
「これも北欧の名作の一つだと思うよ、イッタラのマグカップ!」
「……」
思わず声を大にしてそんなことを叫べば、何故か呆然とした表情で俺のことを見つめてくる水無瀬さん。
あれれ? ここは一緒にテンション上げてくれるところだと思ったんだけど……って、なんでそんなに恥ずかしそうに顔が真っ赤になっちゃってるの?
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