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第366話 無職、家を買う
しおりを挟む「このサイズだと、シャワー室、トイレが付いてれば金貨60枚は買いだと思うよ」
「なるほど、後は状態だな」
「金貨60枚……私的には天文学的数字です」
婆さんに家を見せて貰うと、木製の床に木製の壁。暖炉の前にはテーブルが1つに椅子が4つ。
狭い脱衣所の先にはやたら広いシャワー室があり、トイレは2階にあった、小さいがキッチンもある。
それに+1階に寝室が1部屋、2階に寝室が2部屋。
つーか、どんな物件だよ! 片寄りすぎだろ。
暖炉まであるし! この規模で寝室3は変だ。
だが……悪くはないな。
人によっては少し狭いって言うかも知れないけど、個人的にはこのぐらい狭い方が落ち着く。
「俺は特に文句無いな、クレハはどうだ?」
「私も文句無しだよ。それにシャワーとトイレがあるのが凄くありがたいかな」
「よし、決まりだ。買うぞ、思い立ったが吉日だ!」
「ちょ、本当に買うんですか? 金貨60枚ですよ? 金貨が60枚なんですよ? 家が買えますよ!?」
「家を買うんだよ。お前、少し落ち着けよ?」
金銭感覚の違いに「うわぁ……」っとドン引きのシナノを横目に婆さんに話かける。
「金貨60枚即決だ。売って貰ってもいいかい?」
金貨60枚を〝アイテムストレージ〟から取り出し、婆さんに渡す。ピッタリ60枚、チップも無しだ。
「はい、確かに。家の中の家具は好きに使ってください。本当にありがとうございました」
「家具付きだったのか──じゃあ、貰ってくぜ?」
と、次の瞬間、一瞬で家が消える。理由は簡単だ。俺が〝アイテムストレージ〟に仕舞ったからだ。
一瞬で更地になった家のあった場所を見て、婆さんが腰を抜かしている。それを見たクレハが慌てて「だ、大丈夫ですか!?」と駆け寄っている。
そんな婆さんを家に送り届け、俺は満足の買い物を終える。にしても、家を買ったのは人生で初だな。
しかも異世界無職状態で買うことになるとは……
人生はどう転ぶか本当に分からないものだ。
「……ユキマサさん、損してませんか?」
「ん? 何がだ? お前が紹介したんだろ?」
「あれ土地代込みですよ。土地おいてきちゃったじゃないですか?」
「……!! マジか、損じゃん!」
やっべー、全然忘れてたよ。家を持ち運ぶ何て元の世界でも考えられない買い方だから、うっかりだよ。
今さら負けろ何て言えないし。土地は流石に持ち運べないし、つーか、土地を持ち運ぶのは最早土地じゃない気がする。
あー……これは序盤からミスったな。
「──おーい、お兄さん!」
年は50歳ぐらいだろうか?
中年の男性が小走りで追いかけてくる。
「権利書、権利書! あの家の後の土地はお兄さんの物だよ」
わざわざ届けてくれたのか。
世の中、捨てたもんじゃ無いね。
「すまない。助かる」
頭を軽く下げ、礼を言うと。権利書を俺に渡し、おじさんは去っていく。
去り際にチラッとシナノを見ていった。
おじさんが去った後──
「知り合いか?」
余計なことを俺はシナノに聞く。
「いえ、寧ろ嫌われてるようですね。別に無理もありませんよ──私は世間様から見れば乞食みたいなものですから。お世辞にも誰も私を良くは思いません」
シナノは空を見上げる。
「ユキマサさん、クレハさん。こんな私に分け隔て無く接してくれる貴方達に私は本当に感謝してますよ」
これからも仲良くしてくださいね。
そうシナノは笑った。何処か寂しそうな笑顔で。
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