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Act 3. 学園に入った鳥
案内役と人見知りと愛されの伊吹
しおりを挟む俺たちを乗せた車は学園の洋館の前で停車した。運転手さんが扉を開けてくれ、俺たちは車からおりる。荷物は送ったから、ほとんど手ぶらだ。
運転手さんにお礼を良い、俺たちは洋館に足を進めた。
「これが高校とか、ずるいだろ」
「何がずるいの?」
「いや、何でも」
学園の中に入ると、1人の学生が俺たちに話かけてくる。
「小鳥遊伊織と伊吹か?」
「「はい」」
「理事長室までの案内を担当する、生徒会書記の守屋だ」
「「お願いします」」
何も言わずに、息ぴったりにハモるのはさすが双子だと思う。守屋と自己紹介した男も、双子の俺らに少しびっくりしたような表情をしていた。
「ついてこい」
そう言われて、男の後を追った。
さすが洋館で、この学校の本館と言われるだけある。中の内装は、西洋の洋館そっくりで、調度品に抜かりはない。マイセンの壷や、リヤドロの陶器人形、絵画は有名なものばかり飾ってある。
「多分、理事長室で説明があると思うが、簡単な説明だけしておく。学年は上履きとネクタイピンの色で分かるようになっている。どれも購買で学生証と引き換えに買えるようになっているから、消耗したり、無くしたら各自で用意するように」
「はい」
今度は伊吹だけ返事をした。俺は館内のちょっとした絵画に目を奪われつつ、頷く。
「色は赤が3年、青が2年、緑が1年だ」
そう言われて、男の上履き――というより、バッシュに近い――は、青のラインが入っている。ネクタイで見分けようと思ったが、背広に隠れて若干見えずらい。
「じゃあ、守屋さんは2年ですか」
「そういう事だ。お前達も2年だから、青のタイピンに、上履きだ。それと同学年だから、敬語じゃなくて良い」
「はい」
理事長室までの道のりの間、伊吹と書記である守屋という男は他愛のない会話をしていた。
守屋の横を伊吹が歩いているため、自然にそういう会話の運びになる。
「どちらが兄なんだ?」
「俺です。といっても、双子なので、数分の差でこの世に生まれ落ちただけですが」
少し険を帯びる俺の言葉。
優しそうな表情の伊吹と、いつも無表情が多い俺では、どちらが人に好まれやすいかなど、考えなくても分かる。だからと言って、色んな所で愛想を振りまけるほど器用ではないし、水無瀬で生きていた時の人見知りが改善されているという訳ではなかった。
人見知りは損だと、よく言われる。
けれど、人見知りを超えて付き合える友達の方が波長が合う、というのが俺の持論だ。
「すみません、兄は人見知りなので」
弟に何を言わせているんだ、と言わんばかりの視線を貰う。精神年齢を考えると、大の大人が恥ずかしくないのか、と言われてもおかしくないが。流石に言われる訳もないのでそのままにしておく。
「別に気にしない」
思いっきり気にしてるだろ。思わず突っ込みを入れたくなった。
「ここが理事長室だ」
案内されたのは、荘厳な背の高い扉の前。いかにもな風貌に内心苦笑する。
「俺の役目はここまでだから。何か分からなかったら、ここに連絡してくれ」
分かりやすく、伊吹にだけ名刺を渡す。
補足をしておくと、伊吹は人当たりが良い。
俺との能力差を埋める為に、相当努力をしたのだろう。人に好かれるコツを、子供ながらに習得している。老若男女だれからでも、好かれるのだ。
反対に、俺はよくおじさまに好かれる傾向がある。全く嬉しくない事なのだが、おじさまは嫌いではないので、甘んじている節はあるが。
「「ありがとうございました」」
「別に、たいした事はしてないよ」
そう言って、守屋はエレベーターで降りていったのを見送った。
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