詩的構文 小説一覧

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1

風の届かない夜に

あの夜、 わたしの声は だれにも届かなかった。 からだは うごかなかった。 気持ちも、いえなかった。 ふれたのか、 ふれられたのか。 なにひとつ、はっきりしないまま―― わたしのなかにだけ のこった夜のこと。 これは、 さわられなかった記憶と、 ことばにならなかった感覚が、 いまも からだに息づいている、 そんな話。
2

わたしのなかにいる他人

そのよる、 わたしのなかには だれかがいた。 名前はなかった。 ふれたのかさえ わからない。 ただ、 からだが あたたかさを おぼえている。 そのひとは わたしだったのか、 それとも―― いまも わたしのなかに のこっている誰か。 語られなかった記憶と、 名をもたないぬくもりが、 ことばの外で ゆっくりと息をしている。
3

見られているのに、ふれられなかった

指は動いていなかった。 声も、音も、なかった。 それなのに、 わたしのからだの奥に なにかが沈んだ気がした。 あなたの目が、 わたしを “ふれたもの”として 記憶させていった。 見られているだけだったはずなのに。 これは、 語られなかった視線と、 ふれられなかった肌のあいだにのこる、 静かなエロスの記憶。
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