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読切短編 夫が死んだ日、桜が咲いた

読切短編 夫が死んだ日、桜が咲いた
二十五年間、桜前線の予測を一度も外さなかった気象予報士がいる。 夫が死んだのは去年の三月、東京の桜が満開になったその日だった。ちょうど彼女が予測した通りの開花日に。 今年も変わらずモニターに向かい、等圧線を引き、前線の北上を追う。本州の桜が散り、誰もが花見を忘れた頃も、彼女だけはまだ前線を見続けていた。 前線が北へ進むほど、あの春から遠ざかっていく。それが悲しいのか、救いなのか——答えは出ないまま、今年も前線は北の果てへ向かう。 二十五年間、唯一予測できなかったのは夫の死だけだった。そしてもうひとつ、来年の春、自分がどこに立っているかも、彼女には分からない。
現代文学 完結 ショートショート
感想数 0 文字数 1,182 最終更新日 2026.05.06 登録日 2026.05.06
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