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わたしのシェヘラザード
「――できると思う?」
「本気でやったらね。みんなやらないだけで。ひそかにやって、できてる人もいると思う。あたしたちが知らないだけで」
そう言って、歩き出したとたん、もう先ほどからあたりの匂いでわかっていたけれど、果たして雨が降り出した。
わたしたちは、広い田畑に通ずるレンガ造りのトンネルに逃げこんで、雨宿りをした。
だんだん本降りになる。雨雲レーダーではもうやんでいてもいいはずなのに、まったくやみそうもなかった。二人ともちょっと濡れていて、寒かった。
どうにもできないのだろうか。こんなに願っているのに――これほど願っていることが叶わないなんておかしい。人間は住む世界をまちがっている。これがまちがっていないというのなら、人間は、人間としておかしい。
「なにか話して。やさしいお話」
すると乃愛はしばらく考えて、
「あたし、話すことはできない。こ、こここ、こんなんだし。……けっきょく、語り部と書き手はちがうの」
(本文より)
※『』のタイトルは乃愛の小説。
※ステキブンゲイにて、ジャンル別ランキング(青春部門)最高1位。
※表紙画像:「シェヘラザードは物語を続けた」。ヴァージニア・フランシス・ステレット(1900-1931)著『アラビアンナイト』からの挿絵。ペン出版(1928年)。
(画像引用元:ウィキメディア・コモンズ)
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文字数 17,895
最終更新日 2026.08.12
登録日 2026.08.11
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