ライト文芸 ショパン 小説一覧

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家族のLINEグループにも入れてもらえない五十五歳の透明なサラリーマン、実はショパンコンクール三位の元天才だった。

村上誠一、五十五歳。 エフティ建材の営業部次長。 家では「いればいる」程度の存在で、職場では「なんでもやってくれる人」として二十七年が過ぎた。 帰り道の駅ビルで、偶然、街角ピアノと出会う。 三十三年間、誰にも言わなかった。 ショパン国際ピアノコンクール三位。 一九九三年の秋、恩師が亡くなった夜にステージで止まったこと。 それからずっと、鍵盤に触れなかったこと。 だが、四小節が鳴った。 動画が拡散し、家族が初めて父を「見た」。 妻・久美子が「止まったことと逃げたことは違う」と言った。 息子・翔が部屋に来て楽譜を眺めた。 娘・麻央が「分からんのに弾くの?大人はそういうことをするのか」と聞いた。 命日の演奏会まで、一ヶ月。 先生が「心の声だ」と言い続けた曲・・ショパン夜想曲第二十番を、三十三年分の沈黙の後に弾く。 止まっても、立ったことは残る。
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