屍の上の王 ~信長が愛した女と、愛されたかった男~
信長が強く魅かれながらも時に恐れ、彼を残虐な王へと変容させた竹中半兵衛重治。信長が初めて愛し、最も激しく憎んだ叔母・つや。死を望みながら、信長に生きることを切望された兄・信広。強さと正義を求めた少年が、多くを奪い、より多くを失いながら、屍の上の王へと化すまでの物語。/母に愛されなかった少年・吉法師は、父と兄、そして美しい叔母・つやに見守られ成長するが、京から来た公家に凌辱されたことで心に深い傷を負う。報復として公家を殺害するが心は救われず、何の喜びも感じない。人を殺すことに無感覚な自分に恐怖すら覚えるが、織田家嫡男として大勢を殺し、殺させるのが宿命。なぜ殺すのか、戦うのか。迷いながらも、尊敬する父の様になりたいと武芸に励み、正義の意味を問い続ける信長。美濃に人質として嫁がされたつやを取り戻し、心のまま生きられる世を作ることが、己の目指す正義と定めるが、つやが父を愛し一夜を共にしたことを知り、その志は揺れる。父を超える存在にならねば、つやの前に再び立つことすら出来ない。尊敬していた父はいつしか、乗り越えるべき障壁として、信長の前に立ちふさがるようになった。
弟・信行との家督争いを制し、尾張全土を掌握。物心付いた頃から慕う兄・信広と共に、隣国駿河の今川義元も討ち果たした信長が、次に目指すのはつやのいる美濃。つやの夫を戦で討ち果たすが、落城を逃れたつやは行方知れず。その後も美濃攻略を進める信長は、美濃の軍師・竹中重治と出会う。彼の手引きによりつやは尾張へと戻るが、再会したつやが信長を受け入れることは無かった。父を愛しても、自分を愛してはくれない。信長は果たせぬ思いを、怒りに変えようとした。愛した女を憎むことも、殺すことも出来る。それほどに自分は強いのだと思いたかった。
正義を見失ったまま美濃を手に入れ、西を目指す信長。武の理想を追求する浅井長政と出会ったことで、戦の時代における「正義」と「強さ」の意味を改めて見つめ直し、天下への道を歩み始める。織田家に加わった重治の才能と美貌に惹かれつつ、底知れない闇を警戒する信長。しかし彼の進言に従い、つやを対武田の要衝・岩村へ再嫁させ、夫の暗殺に加担させることを決断。これは軍略と言うだけでなく、それが出来るほど自分は強いのだと証明するためでもあった。
重治は語る。「覇王と呼ばれることに臆さぬ者だけが、乱世を制し王となる。覇道を進む者は強くあらねばならない」。重治に導かれ、覇王への道を進む信長。その過程で長政を己の手で討つことになり、信長を本来の道へと引き戻そうとした兄・信広も戦の中で失う。絶望する信長に、再び重治は語る。「より多くの屍の山を築いた者が時代を制する。だから屍の上に立つ者は、その高さに見合う新時代を築く責務を負う」。誰よりも高き屍の山に一人立つ王へと変容した信長は、乱世の果てに何を見るのか。
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