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祈り
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シリウスのいる部屋に入ると、シャロンは一目散にシリウスに駆け寄る。
消えていた筈の下半身が復活したようで、シーツは足先の形が判るような
膨らみを見せている。
同時にシリウスを包んでいた白いモヤは色をさらに濃くし
両手で囲えるほどの小さな球体になったり
横たわるシリウスにベタリと吸い付く様に伸びたり形を変える。
「石は持っていますね」
ドレーユ侯爵の言葉にシャロンは両手の手のひらを上にするように開く。
右手に女神の涙。左手に死者の魂の宝石を確認すると
ドレーユ侯爵は目じりを下げてシャロンに微笑みながら頷く。
シャロンがシリウスに1歩、また1歩と近づくと
ドレーユ侯爵は呪文を唱えだす。
六角形の不思議な形の魔法陣がベッドの上に浮かび上がった。
柔らかい光の粒子がベッドの上に、シャロンの上に降り注ぐ。
シャロンの心の中は先程までの不安や動揺が消え、凪である。
刹那、シリウスの揺らぎは大波のように揺れ始め
眩い光を伴って人の頭ほどの大きさの球体になった。
シャロンは右手に握る女神の涙を握りしめる。
眩い光が徐々に薄れ、同時に球体は拳ほどの大きさに小さくなった。
【我を守りし守護の妖精よ!光となりてここに集え!】
シャロンは目を閉じ、右の手のひらを上に女神の涙を
差し出すように手を伸ばす。
拳ほどの球体は線となり、光の道となって女神の涙に吸い込まれた。
じわじわとシャロンの手のひらに温もりが伝わってくる。
それは温かいからどんどんとその温度を上げて
手のひらが抜け落ちるのではないかと思うほど熱くなる。
もう持っていられない…シャロンの心の奥の声が聞こえた。
シャロンはグっと女神の涙を握りしめる。
握りしめたその手の甲に左手に持つ死者の魂を重ね、
両手をシャロンの胸に押し当てる。
ブワっと突風が足元から突き抜けるように噴き上げ、
シャロンのプラチナブロンドの髪が舞い上がる。
同時に青白い光がシャロンを包む。
ーーーあぁ…なんて心地よいのかしらーーー
光に包まれたシャロンは灼熱の熱さを放っていた筈の
女神の涙が手のひらを通すように死者の魂に流れ込むのを感じる。
それはまるで、幼き日に母に抱かれた心地よさに似て。
噴きあがった風が静まるとシャロンは屍となったシリウスの胸に
死者の魂をそっと添えた。
押し当てた手から、シリウスの胸が大きく反り返るように動く。
ーーシリウス‥‥シリウス!!ーー
【集いし妖精の御霊よ。器に宿り息を吹き込め!】
シリウスの胸に当てた手から光が放射状に放たれる。
ーーシリウスっ!シリウスッ!!眼を開けて!!ーー
光が消え、ドレーユ侯爵の魔法陣が消滅する。
シリウスの胸に当てた手からシャロンはシリウスの温度を感じる
ーー冷たい‥‥失敗したの?ーー
シャロンの瞳に動揺が走る。
シャロンは動かないシリウスにしがみついた。
「起きて!起きてシリウス!!眼を開けて!!シリウスッ!!」
しかし、シリウスの瞼は動かない。
冷たいシリウスの胸や頬、足をシャロンは自分の体温を
分け与えるかのように撫でるが、冷たさは変わらない。
「あぁ…ア”ァ”ッ‥‥ウワァァァァ‥‥」
狂ったように泣き叫びながらシャロンはシリウスを抱きしめる。
しかしシリウスは息をしていない。
転がった2つの宝石を手に取り、シャロンは握りしめた。
2つの石を重ねるように両手で包み祈る。
「お願いっ…わたくしはどうなってもいいっ!
シリウスを‥シリウスを蘇らせてぇぇぇ…あぁぁぁ…」
シャロンは握っていた石を放り投げ両手でシリウスの頬を優しく撫でる。
「あぁシリウス‥待っていて。わたくしもすぐに…」
冷たいシリウスの唇にシャロンは自身の唇を合わせる。
「愛しているわ。シリウス。愛しているわ…」
唇を放しては愛を語り掛け、また唇を重ねた。
これで最期…とそっと唇を離す。
「‥‥ゥゥ‥‥」
かすかにシリウスの声がシャロンの耳に届く。
「シリウスッ!」
小さく瞼が動く。眉もわずかに動いた。
「シリウスっ!シリウスっ!」
薄っすらと開いた瞼から、シリウスの紅い瞳が見えると
シャロンはシリウスに抱き着く。
「…ロン‥‥‥シャ‥‥」
途切れ途切れの言葉が零れる。
ドレーユ侯爵は、そっとシャロンの肩に手を置く。
「後は任せなさい。君は少し休みなさい」
張りつめていたシャロンの緊張の糸が切れシャロンは意識を飛ばした。
消えていた筈の下半身が復活したようで、シーツは足先の形が判るような
膨らみを見せている。
同時にシリウスを包んでいた白いモヤは色をさらに濃くし
両手で囲えるほどの小さな球体になったり
横たわるシリウスにベタリと吸い付く様に伸びたり形を変える。
「石は持っていますね」
ドレーユ侯爵の言葉にシャロンは両手の手のひらを上にするように開く。
右手に女神の涙。左手に死者の魂の宝石を確認すると
ドレーユ侯爵は目じりを下げてシャロンに微笑みながら頷く。
シャロンがシリウスに1歩、また1歩と近づくと
ドレーユ侯爵は呪文を唱えだす。
六角形の不思議な形の魔法陣がベッドの上に浮かび上がった。
柔らかい光の粒子がベッドの上に、シャロンの上に降り注ぐ。
シャロンの心の中は先程までの不安や動揺が消え、凪である。
刹那、シリウスの揺らぎは大波のように揺れ始め
眩い光を伴って人の頭ほどの大きさの球体になった。
シャロンは右手に握る女神の涙を握りしめる。
眩い光が徐々に薄れ、同時に球体は拳ほどの大きさに小さくなった。
【我を守りし守護の妖精よ!光となりてここに集え!】
シャロンは目を閉じ、右の手のひらを上に女神の涙を
差し出すように手を伸ばす。
拳ほどの球体は線となり、光の道となって女神の涙に吸い込まれた。
じわじわとシャロンの手のひらに温もりが伝わってくる。
それは温かいからどんどんとその温度を上げて
手のひらが抜け落ちるのではないかと思うほど熱くなる。
もう持っていられない…シャロンの心の奥の声が聞こえた。
シャロンはグっと女神の涙を握りしめる。
握りしめたその手の甲に左手に持つ死者の魂を重ね、
両手をシャロンの胸に押し当てる。
ブワっと突風が足元から突き抜けるように噴き上げ、
シャロンのプラチナブロンドの髪が舞い上がる。
同時に青白い光がシャロンを包む。
ーーーあぁ…なんて心地よいのかしらーーー
光に包まれたシャロンは灼熱の熱さを放っていた筈の
女神の涙が手のひらを通すように死者の魂に流れ込むのを感じる。
それはまるで、幼き日に母に抱かれた心地よさに似て。
噴きあがった風が静まるとシャロンは屍となったシリウスの胸に
死者の魂をそっと添えた。
押し当てた手から、シリウスの胸が大きく反り返るように動く。
ーーシリウス‥‥シリウス!!ーー
【集いし妖精の御霊よ。器に宿り息を吹き込め!】
シリウスの胸に当てた手から光が放射状に放たれる。
ーーシリウスっ!シリウスッ!!眼を開けて!!ーー
光が消え、ドレーユ侯爵の魔法陣が消滅する。
シリウスの胸に当てた手からシャロンはシリウスの温度を感じる
ーー冷たい‥‥失敗したの?ーー
シャロンの瞳に動揺が走る。
シャロンは動かないシリウスにしがみついた。
「起きて!起きてシリウス!!眼を開けて!!シリウスッ!!」
しかし、シリウスの瞼は動かない。
冷たいシリウスの胸や頬、足をシャロンは自分の体温を
分け与えるかのように撫でるが、冷たさは変わらない。
「あぁ…ア”ァ”ッ‥‥ウワァァァァ‥‥」
狂ったように泣き叫びながらシャロンはシリウスを抱きしめる。
しかしシリウスは息をしていない。
転がった2つの宝石を手に取り、シャロンは握りしめた。
2つの石を重ねるように両手で包み祈る。
「お願いっ…わたくしはどうなってもいいっ!
シリウスを‥シリウスを蘇らせてぇぇぇ…あぁぁぁ…」
シャロンは握っていた石を放り投げ両手でシリウスの頬を優しく撫でる。
「あぁシリウス‥待っていて。わたくしもすぐに…」
冷たいシリウスの唇にシャロンは自身の唇を合わせる。
「愛しているわ。シリウス。愛しているわ…」
唇を放しては愛を語り掛け、また唇を重ねた。
これで最期…とそっと唇を離す。
「‥‥ゥゥ‥‥」
かすかにシリウスの声がシャロンの耳に届く。
「シリウスッ!」
小さく瞼が動く。眉もわずかに動いた。
「シリウスっ!シリウスっ!」
薄っすらと開いた瞼から、シリウスの紅い瞳が見えると
シャロンはシリウスに抱き着く。
「…ロン‥‥‥シャ‥‥」
途切れ途切れの言葉が零れる。
ドレーユ侯爵は、そっとシャロンの肩に手を置く。
「後は任せなさい。君は少し休みなさい」
張りつめていたシャロンの緊張の糸が切れシャロンは意識を飛ばした。
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