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第三十九話 いよいよ待望の瞬間が迫ってきた

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『ウゴオオオォォッ……』

 ズンズンと大きな音と振動を引き連れながら、少しずつ青いゴーレムの巨体が迫ってくる。

 このボスは動きが鈍いが、とにかくタフで硬く、しかも再生能力があるため物理攻撃はほぼ通用しないことで知られる。ブリザードゴーレムと交戦した探求者の死因としては圧死が一番多く、踏み潰されたり袋小路に追い詰められて壁とサンドイッチされたりすることが多いらしい。

 とはいえ、相手が悪かったな。

 まず流華の強力な《風刃》、それにコージのスピードとパワーを兼ねた連続攻撃により、ゴーレムの弱点である足にダメージが集中し、まもなく対峙していた巨躯が仰向けに倒れることとなった。一か所に攻撃が集中すれば、こうして再生する前に動作を完全に封じ込めることができるのだ。

 手袋を装着した右手でやつの体に触れると、俺の手に凍えるような感触と重みが生じる。これは……剣か。

「おおっ、真壁兄貴、それはA級アイテムのアイスソードってやつでやんすよ!」

「アイスソードか……」

 見てるだけで体が凍えるような、それでいて透き通るような青白さが特徴の美しい長剣だった。

「滅多なことじゃ落とさない威力抜群のレア武器だそうで、火属性のモンスターに滅法強くて壊れにくく、欠けてもすぐに再生するそうでありやす!」

「へえ……中々の得物なんだな。さて、剣も得たことだし最高の剣術の《枯葉》を試すとするか」

『ウゴオオオオオォォォォッ……!』

 あっという間に崩れていく氷の山に、俺はそっと手を合わせる。タフで物理攻撃に強いボスすら一撃で倒せるほどとはな。

 ……お、アイスソードの影響か、ブラックカードのランクがこれでFからEになった。

「ちょっと、真壁庸人君、ご馳走様は言わないわけ?」

「言わない」

「んもうっ、お行儀悪く育ったわねえ……って、あたしのおっぱいをねだってた昔から変わらないかっ」

「そ、そう言いつつ貧弱な胸を寄せるなっ!」

「むー……」

「「じー……」」

「お、おいおい、コージ、六さん、俺はなんも悪くないんだからそんな目を向けるなって!」

 二人の視線はアイスソードよりも冷たく感じた。

「理沙ちゃんに告げ口しやす」

「おいどんも。これは真壁どんのスキャンダルとして理沙っちに報告の義務があるっす」

「おいおい、おいおい……!」

 しばらく背中に冷や汗をかきつつ、俺は100階層の扉を探してそこから101階層に出た。

「「「「――うわっ……」」」」

 俺たちの上擦った声が被るのも仕方ない話で、それくらいの凄まじい熱気が飛び掛かってきたんだ。みんな俺の近くにぐっと寄ったのも、アイスソードがそれだけ涼しいからだろう。

 101階層からはそれまでと打って変わってマグマの洞窟と聞いてたが、これほどまでに熱いとはな……。ただ、急に寒いところから来たからその影響もかなりあるように思うし、慣れてくれば大丈夫のはず。

 さて、あとは英雄が登場してくれるだけでいいんだが、遭遇までそう時間はかからないはずだ。何故なら1~200階層が初心者用でそれ以降は中級者用の階層のため、反撃される恐れや手間を考えると、この101階層から200階層までに出てくる可能性が高いように思う。

 それにここは足場が狭く、落ちたらマグマの餌食になってしまうため、ゆっくり慎重に行かなければならないことを考えると、探求者を最も捕まえやすい、狙いやすい階層といえるだろう。

 出現モンスターはブレイザー、フレイムシューター、ファイヤーロック、サラマンダーの四種類で、ボスはイフリートらしい。下層に行けば行くほどモンスターの湧きがよくなり道も細くなるため、細心の注意が必要だ。

「兄貴には指一本触れさせないでやんすっ!」

「絶対に振り向かせてやるんだからっ!」

「……」

 コージの気持ちは嬉しいが、流華の場合邪心が入ってるような気がする。それでも二人の活躍は目覚ましいもので、《氷牙》とソードナックルによって、突っ込んでくる小さな火の鳥や岩のモンスター、それに遠距離から火の矢を放ってくるターバンを被ったスケルトン、炎を噴く赤い大トカゲを次々と倒してくれていた。

「みんな、凄い汗っす。これを飲むっす」

 六さんはただカメラを持ってついてくるだけと思いきや、器用に立ち回ってハンカチで俺を含むみんなの汗を拭ったり、モンスターを倒しきったタイミングで水筒を渡してくれたりと、かなりありがたい存在になっていた。

「――来た……」

 やがて、俺は水谷の気配を感じた。いよいよだ。いよいよ待望の瞬間が迫ってきた。水谷皇樹、もうすぐお前を英雄の座から引き摺り落としてやる……。
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