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第四十話 これが英雄の吐く言葉なのか

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 水谷が近付いてきたことを伝えると、一気に緊張感が肥大していくのを感じた。

 ここからが大事で、行く前にやった事前の打ち合わせ通り、いかにも初心者っぽい、それも不仲のパーティーを演じて油断させる作戦でいく。

 まずはレア武器のアイスソードをパーソナルカードに収納し、ミラーモードに切り替えて変装が崩れてないか確認するのも忘れない。

 とはいえ、あんまりわざとらしく弱そうにすると、逆になんでここまで来られたんだと警戒されると思うので、直前で作戦内容を少し変更することにした。不仲の部分をここに来てさらに悪化させるような感じだ。

「おい、お前らっ! 誰のおかげでここまで来られたと思ってんだ! ああっ!? ちゃんと足並み揃えろってんだ、ダボがっ!」

「へ、へいっ」

「了解でごわす」

「わ、わかったわよ……」

 俺はあえてコージ、六さん、流華と距離を取った。仲間がそれでも自分についてくると俺が過信しているように見せかけるためだ。

「ホント、嫌になりやす……」

「リーダーの横暴には、おいどんも失望したっす……」

「あんなやつ、なんでも一人でしたらいいのよ……!」

 コージたちは事前の打ち合わせ通り、俺に対する愚痴をこれでもかと撒き散らしてる様子。ただ、水谷は何故かコージたちの後方で、一定の距離を置いて立ち止まっている。どうしたんだろう。まさか、こっちの作戦がバレた……?

「――っ!」

 やがて周囲にモンスターが発生すると、水谷が後方から一気に迫ってくるのがわかった。なるほど、このタイミングを見計らっていたのか。その上、まずは一発で倒せるかどうかわからない俺をスルーして、コージたちを素早く始末する腹積もりだろう。

 中々抜け目のないやり方だが、思い通りにはさせない。俺は自分に防魔術の一つ《加速》をかけ、コージたちを守るように後方に立つと、偽りの英雄を炙り出すべく《陽光》を使用した。

「なっ……!?」

 水谷の驚愕した顔面が露になる。俺は奪ったばかりの《刹那》で一気に周囲のモンスターを片付けたが、英雄には行使しなかった。今回の作戦は、やつを殺すのではなく恥をかかせるのが目的だからだ。

「た、助けてくれでやんす!」

「死ぬのは嫌でごわす!」

「嫌あああぁぁぁっ!」

 よしよし、みんなちゃんと逃げ出してくれた。ちょうどその際にフラッシュも焚かれてたし写真もばっちりだろう。

「の……逃すものかああぁぁっ……!」

 水谷のやつ、俺が目の前にいるっていうのにコージたちのほうへ行こうとしたので、立ち塞がって《浮雲》で同じ方向、すなわち俺の前方へ投げ飛ばしてやった。

「ど……どけっ! 殺す、殺すぞっ。滅多刺しにしてやるぞ、おいっ……!」

「……」

 これが英雄の吐く言葉なのか。今度はちゃんと斬りかかってきたが、俺は構わず何度も同じ方向へぶん投げてやった。

「――ぢ……ぢくしょう……!」

 鼻血をダラダラと流しながら、それでもめげずに向かってくるところはさすが英雄といったところだろうか。本音としてはこっちの正体を明かした上で殺してやりたいところだが、それはじっくり苦しめてからのお楽しみでいいだろう。

「……こ……殺す……ころ……す……」

 しばらくして、水谷皇樹は白目を剥き、泡を吹きながら失神してしまった。早速手袋をはめた右手で偽りの英雄の体に触れることにする。本当はやつの体に触りたくもないが、仕方ない。

「お……」

 何かを引き摺りだしたような感覚があったが、目では見えない……ってことは、これはおそらく例の姿が見えなくなるっていうS級アイテム、インヴィジブルマントじゃないかな。

 パーソナルカードで確認するとやはりビンゴで、ブラックカードのランクがEからDまで上がっていた。S級アイテムだしもっと上がるかと期待したが、ランクが上がれば上がるほど上がりにくくなるわけで、それもブラックカードだしこんなもんなんだろう。

 さあて、待ちに待った英雄の面汚しの時間だ。俺は意気揚々と気絶した水谷の体を引き摺り、コージたちと合流したあとダンジョンから脱出した。
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