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2章 コスで冒険

28話 誇りを打ち砕く

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「ね、ねぇエリーヌ、止めた方が良いんじゃない?」


パーシェントの問いかけにアタシは動けなかったわ、だって見とれてしまったの、あの男たちが舞台に上がる時も、アタシは止めるのを遅れたわ、だってリュウ君がカッコいいんだもの見とれても仕方ないわよ。
ジャービスさんもそうだったと視線を向けます、ジャービスさんはリュウ君の戦いを見ても止めません、リュウ君本人が止めたのもあるけど、普通はそれでも止めなくちゃいけないわ、でもリュウ君の戦いをこの目で見たいのよ。


「ねぇエリーヌってば!」

「止めましょパーシェント、リュウ君には何か考えがあるのよ」


観戦しましょうと伝えました、ここはアタシたちが出るべき時じゃないのよ、男たちが補助魔法を受けいよいよ戦いが始まります、動き出した男たちを見て、リュウ君は訓練だと言い放ったの、訓練を受けていた3人は見てる様に言われ黙って見ているわ。
リュウ君は武器も持たず1人で突っ込んで行きました、相手はそのスピードにびっくりして剣を振ったけど、クロスさせたリュウ君の腕に手首を挟まれ止めらたの、動けない男のお腹にリュウ君は膝を入れ、1人はお腹を抱えて倒れたわ、流れるような動きでもう一人は助ける事も出来なかった。
もう一人はやっと我に返り剣を振ります、さすがに当たる!?っと思って目を逸らしたくなったわ、でも剣がリュウ君の手の甲に触れた瞬間、剣の軌道が変わりリュウ君を避ける様に振り下ろされました、あれはスキルの【受け流し】ね、それも一度ではなく男の下段からの振り上げも受け流したわ、男の剣撃をリュウ君は何度も両手の甲で軌道を変えて行ったの。


「すごいわねリュウ君」

「ほんと・・・でもすごく良く見えるね、どうしてかな?」


パーシェントの言葉に、アタシもそう言えばと見返したわ、あいつらは腐ってもプラチナクラス、その動きがただの職員であるアタシたちが見えるわけないの、元冒険者のジャービスさんなら別ですけどね。
舞台の上で見守ってる3人もそうよ、ドモスルの時はアタシたちと同じで全然見えなかったはずなの、でも今はちゃんと見えてるみたい、一体何がどうしてなのかしら。


「これは見稽古だ」

「「見稽古?」」


アタシたちは声を揃えて聞いちゃったわ、ジャービスさんは頷いていますが初めて聞く言葉にアタシたちは頭を捻ります、見ているだけで稽古になるのかとすごく疑問です。
さっきもそうだけど、リュウ君の訓練は不思議な物ばかりよ。


「それのおかげでアタシたちも見えてるって言うんですか?」

「本来はそう言った物ではないさ、だがリュウはそれを可能にしている、恐らくユニークスキルでも使っているんじゃないか?」


俺にも分からないとかドヤ顔で言ってます、結局分からないんじゃないですかってパーシェントは突っ込んだけど、ほんとにそうですね。
そうこうしていると、リュウ君の動きが変わったように見えます、今までは相手の剣の軌道をずらすだけでした、でも今は手を使わず剣が来る前に体を少しずらしています、パーシェントもそれに気づいたみたいよ。


「あれは【見切り】だ、凄いなリュウ」

「ジャービスさん、そんなにすごいんですか?」


そんな事も知らないのかっとジャービスさんに叱られてます、書物をもっと読んで勉強しなさいって頭を叩いていたわ、見切りは受け流しの上位よ、それは攻撃を受けるのではなく、躱すことを繰り返した人の境地です。
リュウ君はそれを使いこなし始めてるの、後ろにいた魔法使いの男が戦いに参加し、魔法を撃ち込みます、でもリュウ君はそれすらも受け流したの、魔法使いの男は何度も魔法を放ちますが、数発後にリュウ君は魔法の軌道を変え魔法使いの男に返しました、男は避ける事が出来ず黒焦げです、それも3人に見せるようにしています、アタシたちが見えてるんだからきっとそうです、これはまるで演武よ。


「武技をあんなに簡単に覚えさせたリュウ君だもの、もしかしたらこの演武、とてつもなくすごいんじゃないの?」


アタシたちはジッと見てるけど、さっきまでのイライラはどこかに行ってしまったわ、今は決まっていた訓練を見てる気になる、リュウ君の動きを見てると、何でかその動きに吸い込まれるのよ、きっと3人も感じてるかもしれないわ。
2人の男を倒すと、ドモスルが回復してきたわ、回復魔法士の女性は強化魔法を掛けて倒れちゃったの、仲間をあんな風に使うなんて嫌な奴ね。


「だからあんたはゴールドクラスになれないのよドモスル、イーザスさんとは違うわ、これをギルマスに報告して降格にしてもらいましょ」


リュウ君はまだアイアンだけど評判は良いわ、実はこの訓練を行うにあたって大変だったのよ、リュウ君が個別クエストをしてる時、途中で出会った冒険者を手伝ったからなの、それはアタシたちの知らない外での事よ、全員が参加したいって言ってきて、どうして知ってるのって大変だったわ、リュウ君も大人数は大変だから次の機会って断ったけど、一度しか会ってないのに参加したいとか言って来るってどんなカリスマを持ってるのよね。


「アタシたちとも話せるようになってきてるリュウ君は期待に新人よ、彼はもっと伸びるわ、きっと彼を中心にここは変わるの」


ドモスルとの戦闘がそれを証明する、そう思っていたらリュウ君が背を向けました、そしておどろくべき提案をしたの、なんとアレーンたち訓練生3人にドモスルの相手をするように言ってます。
誰もが信じられないって思ったわ、ドモスルも笑ってたけど、そんなのお構いなしに攻撃してきた、それをリュウ君が素手で受け止めて見せたわ、ドモスルは剣に力を込めるけど動かせないみたいよ。
リュウ君の手からは血が出てる、さすがに危険だと思ったけど、アレーンたちに「いけっ!」っと気合を入れたんです、そしてどういう訳か3人の攻撃はドモスルをひるませるほどに凄い勢いよ。


「うそ!?どうして、なんでなんですかジャービスさん!」

「いや、俺に聞かれても・・・おいリュウ!」


3人の戦いを眺めていたリュウ君を呼びました、そしてよくわからない答えが返って来ます、アタシとパーシェントはどういう事っと聞いちゃったわよ。


「なるほど、見稽古で目が慣れたのか・・・いやリュウ、そんなに変われるわけないだろ!」

「普通はそうですよジャービスさん、でもさっきの戦闘で強弱をつけポイントを作り、速度を徐々に上げていったんです、目が慣れて動きが見えると言う事はすごい事なんですよ、もちろん最初は相手も戸惑い驚くからついていけます、少し経てば経験の差が生じて3人は遅れ出します」


レベル差があるので仕方ないって笑顔です、負けるんじゃ危険じゃないっと伝える前にリュウ君も戦いに入りだします、4人で戦うようになり、せっかく押し始めたドモスルが押し返され始めます、アタシたちは驚きです。


「ドモスルの攻撃をリュウが受け止め、アレーンたちが攻撃を担当する、なかなか良い訓練だな」


アタシはあいつが入って来て、邪魔だ!降格にしてやるっと思ってたのに、リュウ君は3人の為に使ったの、あんな奴勿体ないって思えないわよアタシ。


「やっぱりリュウ君は指導者に向いてるわ、そう思いませんかジャービスさん」


きっとジャービスさんも思っていたはずです、だってこれを提案したのはジャービスさんですからね、アタシとパーシェントは断ったの、だってあれだけ怖がってたリュウ君だもの、指導者なんて出来ないと思ったわ、でも名声を上げるにはこれほど良い案はない、ギルマスに報告して評価してもらえるわ。
その第一歩っと思っていましたけど、これは期待以上の成果です。


「あいつが来てくれなかったらそれも分からなかった、憎たらしいけど今回は報告だけで許してやるわ」


それを分からせてくれたドモスル、次はそんなの無くてもリュウ君の良い所を見つけて見せるわ、絶対にね。
リュウ君たちの戦いは、どんどん速度が上がって良き一方的になりだします、最後なんてリュウ君が不参加で勝っちゃったの、ドモスルは新人3人に負けて心が折れてしまったわ。
ジャービスさんがそんなドモスルたちを締め上げたけど、アタシとパーシェントは早速指導のお願いに走りました、断られるのは分かってるけど、これは言わずにはいられません。


「良いですよ、次はいつにします?」

「「え!?良いの?」」

「もちろんです、でも邪魔者なしでお願いしますよ」


聞き返しても同じ答えでした、もちろん次は邪魔なんて入れさせないわ、それだけの事をリュウ君は示してくれたもの、職員であるアタシたちが頼んだのに、出来ませんじゃすまされないわよね。
それから数日おきにリュウ君の指導が始まったわ、それは下級クラスの冒険者が好んで参加するモノになったんです。
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