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2章 コスで冒険

33話 帰って来た人達

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「クエストご苦労様でした、次も頑張ってください」


作り笑顔で冒険者にカードを手渡します、アタシは今イライラしてるんですよ、それと言うのも、こんな時に受付の仕事をしてるからです、今はパーシェントと変わりたい!そう思って訓練場の入り口を睨みました。
絶え間なく冒険者が受付に来て、いつもよりも忙しいんです、アタシのイライラはそれも原因です、明日は新年祭で冒険者が増えてるから、こんな惨状になっています。


「オーク討伐クエストですね、今は新年祭特別価格になっています、報酬額は2割増しですのでお確かめください、ご苦労様でした」

食料系の報酬が2割増しになるこの時期、ほんとに忙しいんです、ここに来る前にオークやボアを倒し、ここで報酬を貰うのがいつものパターンなの、冒険者が多くなるから装備等も安く買えるわ、だから余計ね。
それでも冒険者には笑顔の対応はかかしません、イライラを見せないよう最善を尽くしてるんです、この後良い事があると言い聞かせ、アタシは頑張るわ。
今訓練場ではリュウ君が指導をしてるの、パーシェントが担当でそれを見ているわ、代わりに見たい!そう思っているけど、ここは我慢なの、今年はアセルス王子が学園に行くって事で余計忙しいけど、リュウ君の笑顔を見れれば疲れなんて吹き飛ぶわ。


「ラビットの討伐クエストですね、ありがとうございます」


あと少しでリュウ君に会える、そう思って食料系の受付を受理します、ラビットばかりでイライラも絶えないけど我慢よ、この時期は夢に出そうなくらい多くの冒険者の相手をします、だから楽しみがあるだけ今年はマシ。
そう思っていたら、2つ横の受付にいた冒険者にふと目が行きました、どこかで見たような気がしたの、何処だったかしら?


「あの、受付を」

「あらごめんなさい、ラビットの討伐だったわね」


受付業務が出来てなかったと謝罪をして、お仕事に集中したわ、やっと冒険者が減って来るとアタシの待望の時間が迫って来たわ、訓練場の方を見ると訓練を終わらせた冒険者たちが出てきた、終わったのねっとリュウ君が出て来るのを待ったわ、あの子は混雑してる場所には来ないから丁度良いのよ。
入り口付近の冒険者たちがテーブルに集まり話し込んでる、これならしばらくは受付でお話しが出来ると、凄くにやつ着たわ。


「イーザスさん!」


お食事に誘っちゃおうかしら、そんな事を考えていたら大きな声が驚いたの、テーブルに集まってた冒険者がギルドの入り口に集まっていきます、よく見ると期待のPTが中心にいました、しかもアタシが知ってる人数よりも増えていたわ、他の街で勧誘したんでしょうね、さすが期待のプラチナクラスです。
そう思って見ていたら、受付にリュウ君が来ました、みんなの視線が向こうに行ってる間に来たの、さすがねっとこの日一番の笑顔をしちゃった。


「お疲れ様リュウ君」

「ありがとうございますエリーヌさん、それにしてもすごい人ですね」


入り口を見てリュウ君が嫌そうです、そんな顔を可愛いとウットリしながら返事をします、プラチナクラスの冒険者が帰ってきたと話題を作り、リュウ君との甘いお喋りを始めたわ。
最近のリュウ君は会話中、表情が凄く変わります、今まで怖がってばかりだったのに随分良くなったわ、それのおかげでアタシも幸せよ、訓練の後のリュウ君はキラキラしててカッコいいの、それだけでお腹いっぱいに出来るわ。


「あれじゃ外に出れませんね」

「そうねぇ~」


空返事になったのは仕方ない事よ、だってリュウ君の顔がお願いしますって近いんだもの、潤んだ瞳が凄く素敵よ。
裏口を使わせてと、率直なお願いに変わるのを待ち、ほわぁ~んとします、そしてリュウ君の口からその言葉を貰ったわ、だけどタダでは通せないわ。


「じゃあ今度、お姉さんとお食事しましょ」


何度も断れてます、今みたいに人が多くて出てない時にね、だけどリュウ君が悩んでいる間にいなくなってしまったりと、いつも逃げられていたわ、でも今日はそうはいかない。
リュウ君が悩み、やっと了承を貰ったわ、お祭りを一緒に楽しむ約束をしたの、アタシの頭の中では飛び上がった自分が沢山いますよ。


「じゃあ明日9時に中央広場ね」

「分かりましたエリーヌさん、じゃあ僕は裏口から、明日会いましょう」


冒険者たちが集まってる入り口を避け、ギルドの裏口に入って行ったわ、アタシはニヤ付きを隠せず手を振ったの。
リュウ君の笑顔は嫌がってないかったし、ほんとに楽しみ。


「何を着て行こうかしら?下着も良いのを」

「随分ご機嫌ね、エリ~ヌさ~ん」

「ぱぱぱ、パーシェント!?」


明日の予定を決めていると、不意に訓練場から帰って来たパーシェントが横にいたわ、いつからいたのよっと聞いたけど、今さっきらしいわ、訓練場の整備をしていたのよ。
なんだ気付かれてない、そう思ったけど、アタシの顔を見れば少し考えれば分かる事よ、パーシェントは当てて来たわ。


「リュウちゃんとデートなんてズルい!」

「い、良いじゃないパーシェント、あなたは今日訓練場で凛々しいリュウ君を見てたんでしょ」


それはそれで楽しかったとか言ってるわ、冒険者が多くなってるから新人職員も力が入っています、リュウ君のおかげで生存率が格段に上がったわ、今日アタシがイライラしていたのは、訓練場の見張りはアタシも行く予定だったの、それが今日は職員の欠席者が出てしまったから受付をする羽目になった。
デートの約束は頑張ったご褒美よね。


「ズルいわよエリーヌ!」


服を掴んで泣いてるわ、このままじゃ明日つけられる、そう思ったアタシはリュウ君にお願いする事を約束したわ、2日目になるけどデートが出来るなら明日は来ないわよね。
それを聞いてすごく喜んでるわ、泣いていたはずなのにすごい代わりようよ、気持ちはわかるけどね。


「それにしても・・・人気よね、さすがイーザスさん」

「そうね・・・でも、いつもの事じゃない」


リュウ君が断って来る可能性に気付かれる前に話題を変えます、入り口を塞いでる冒険者たちに視線を移したのよ、あそこではどんな冒険をして来たのか聞いてるわ、アタシも聞きたいけど、この時期になるといつもこうだから新鮮味はないわ、今は明日の事で頭がいっぱいよ。
イーザスさんたちは今年、ゴールドクラスに挑戦しクランを作ると噂よ、だけどアタシには明日の方が重要、入り口ではランク試験の話をしてるけど、正直受かるのが分ってるからどうでも良いわ。
イーザスさんたちが冒険者の対応を済ませ、受付に歩いて来たわ、試験を受ける為にどんなすごいモンスターを狩って来たのかしらね?


「久しぶりエリーヌさん、元気でしたか?」

「もちろんですよ、イーザスさんも元気そうですね」


少しだけ塩対応です、でも彼らのおかげでデートの約束が出来ました、明日は絶対モノにします。
どんなモンスターを倒したんですか?っと、頭の中とは違う質問でその場をしのぎます、でもイーザスさんたちは嬉しそうにしないですごく暗い顔をしたの、さすがに頭を切り替えパーシェントとどうしたの?って顔で質問しました。
イーザスさんたちから驚きの事実を聞いたんです、ここに来る前、西のツダント山で土龍と戦ったそうです、ドラゴンを倒すなんてさすがです。
どうしてそんな顔なの?と思うほどの成果でした。


「もしかして申請が通らないとか?」

「そんなわけないわよパーシェント、土龍を提出すれば申請会議をすっ飛ばして通るわ」


試験はしないといけないけど、実力的には余裕です、ドラゴンで一番弱いと言われるワイバーンでもすごいのに、中級に位置してる土龍なら文句なしよ。
パーシェントとそうだよねっと顔を揃えます、でもイーザスさんたちは複雑そうな顔を変えません。


「どうしてそんな顔をしてるんですか?」

「パーシェントさん、実はオレたち助けられて土龍を倒したんだ、弓を使うシーフにな」


イーザスさんはフードをかぶっていて顔は見てないと言ってきたわ、アタシもパーシェントも驚きよ。
その人物を知らないかイーザスさんは聞いて来たわ、でも土龍に挑めるシーフなんてここにはいない、世界でも1人いるかどうかよ、強さだけならリュウ君が直ぐに思い浮かんだわ、だけど遭遇したのは3日前です、彼はその日訓練をしていた、アタシたちがしっかりと見ているわ。


「へぇ~先ほどの少年はそんなに強いのかい?」

「み、見てたんですかイーザスさん」


パーシェントの驚きも最もよ、入り口で冒険者たちに囲まれていたから遠くて見えないわ、でもイーザスさんはもちろんって答え、ニッコリと笑顔を見せた、それはアタシに危機感を抱かせるのに十分なモノだった、前はこの笑顔が素敵って思った事もあったわ、主に冒険者としてね、だけど今はそうでもないわね。
リュウの職業を教え違う事を強調したの、訓練をしてもらっていて良く知ってると伝えたの、フードをかぶって冒険者を助けるなんて、前のリュウ君のスタイルだけど、それは言わないでおくわ、このままイーザスさんに勧誘されたら会えなくなっちゃうもの。


「ここから山まで遠いし、まずないわ」

「確かにそれは無理だろうな、それにそいつは男だろ?オレたちを救ってくれたのは女性だ、背丈も少し高かった、俺が男と間違うわけない、胸が大きかったからな」


イーザスさんがそんな事を言うなんてっと思ったけど、どうやらその人に恋をしたみたい、強いだけならもう一人心あたりがあるけど、往復6日も掛かるとなるとないわ。
エリナさんは、酒場が休みの1日以外はお仕事を休みません、パーシェントも無言で同じことを考えてるみたいよ。


「まぁなんにしても、オレたちはまだまだだったよ、ほんとは申請しようと思ってたんだけど、基本からやり直したいと思ってる」


話の流れで試験は受けないのは分かっていました、でも基本からなんて真面目ね、彼に紹介もしたいから訓練を勧めます、他の人ならアイアンクラスの指導なんて拒否してきます、でもイーザスさんは喜んで参加を選んだのよ。


「さすがねイーザスさん、土龍の納品はどうされますか?」

「それなんだよ、さすがに俺たちでも解体は出来なかった、ギルドにお願いすると国も聞きつけて試験を進めて来るだろ?だから出したくない、でも30mあるから収納に入れっぱなしは容量がいっぱいで困るんだ、どうしたもんかな」


30mの土龍を収納できるなんてさすがイーザスさん、そう思っていたけどギリギリだから困っていました、ドラゴンを解体出来て、ギルドも国も関わってない人物なんて知りません、力になれそうもないわ。


「ごめんなさいイーザスさん」

「良いですよ仕方ないです、しばらくはそのリュウ君に訓練をしてもらうさ、彼女に勝てるって自信を持てるまではギルドに出す気にはならないしね」


試験はその後受ける【ははは】と笑って話してくれたわ、それで済ませられる話題じゃないんだけど、さすがの器量よ。
土龍の報酬は莫大な額です、それを笑って済ませるなんて大物ですよ、新年祭の終わる4日後の訓練にイーザスさんたちを追加して、イーザスさんたちはギルドを出ました、顔合わせが出来そうで良かったとニコニコです。


「イーザスさんが味方になってくれれば国も騒がないわ、リュウ君がお姉さんと仲良く暮らせる日も近いわね」


孤児院もリュウ君も段々と噂が大きくなっています、新年祭できっと爆発的に広まるわ、ギルドマスターにも話は着けたし、準備が間に合ってよかったとホッとしましたよ。
エリナさんがアタシの事をお姉さんっと呼ぶ日も近い、そんな妄想を浮かべて明日の為にお仕事をしました。
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