貞操逆転世界の孤高なる料理人「男ですが、路地裏で定食屋はじめました」
この世界は男女の立場と貞操観念が完全に逆転しているからだ。
社会を動かし、汗水垂らして働くのは女性。男性は希少で、か弱く、家の中で大人しく保護されるべき存在。
当然、男性が包丁を握る文化などない。この世界の男が料理をするシチュエーションといえば、お姫様のように飾り立てられたフリルのエプロンを着てスイーツを作るか、特権階級のパトロンに媚びるために、宝石のような高級創作料理を嗜む程度。
それ以外の一般女性たちが普段口にするのは、機能性と効率だけを重視した、味の薄い「栄養補助ゼリー」や「プロテインバー」、あるいは力任せに塩コショウで炒めただけの無骨な肉料理ばかりだった。
そんな狂ったバランスの世界に身一つで放り出された俺は、危うく肉食獣のような目をした女性たちに囲まれ、「保護」という名の監禁をされそうになった。
それを救ってくれたのが、この街の一帯を牛耳る地主であり、老舗工務店の先代社長である「おばあちゃん」だった。
『男だてらに、飯が作れるだと?』
おばあちゃんの屋敷へ連れ帰られた俺が、お礼代わりにあり合わせの食材で作ったのは、出汁巻き卵、豚の生姜焼き、そして豆腐の味噌汁。
五臓六腑にしみわたる「本物の出汁」と、計算された職人の味を口にしたおばあちゃんは、目を剥いて絶句した。そして、豪快に笑ってこう言ったのだ。
『気に入った。お前のその腕と、男だてらに職人として自立しようという気概、私が買ってやる。……私の持ち物件を一つ貸してやろう。私が後ろ盾(パトロン)だ。誰もお前を無理やり連れ去ろうとはさせんよ』
最高権力者であるおばあちゃんがバックに就いてくれたおかげで、俺は怪しい組織に拉致されることもなく、合法的に自分の城この定食屋を持つことができたのだった。
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