鬼灯町怪異譚《毎日22時更新》
たとえあなたが忘れても、
この町だけは、あなたを覚えている。
忘れられたものは、どこへ行くのだろう。
幼い頃に失くした玩具。もう呼ばれることのない名前。誰も訪れなくなった場所。いつか確かに交わしたはずなのに、思い出せなくなった約束。
そして、誰の記憶からも消えてしまった人。
もしも、そうして世界から零れ落ちたものすべてに、最後に辿り着く場所があるのなら。
きっとそこには、赤い鬼灯が灯っている。
──鬼灯町。
地図には載っていない。
けれど夕暮れと夜の狭間、帰る場所を見失ったものの前にだけ、その町へ向かう道は現れるという。
高校二年生の少女・小夜が鬼灯町を訪れたのは、忽然と姿を消した親友・真白を探すためだった。
手掛かりは一枚の写真。
古びた商店街、夕暮れの空、軒先に揺れる赤い鬼灯。そして、その裏に記された『鬼灯町』という文字。
ある雨の夕暮れ、小夜は見覚えのないバス停から古びたバスへ乗り込む。
その先で待っていたのは、人ならざるものたちが暮らす、どこか懐かしい町だった。
死者ばかりが泊まる宿。
名前と引き換えに願いを叶える古書店。
真夜中にだけ開く駄菓子屋。
子供しか乗ることのできないバス。
どれも知らない。
来たことなど、一度もない。
それなのに──
──私は、この景色を知っている。
そんな町で出会ったのは、ヨイと名乗る怪異。
片目を覆う濡羽色の髪に、黒い長羽織。右手首には、色褪せた赤い組紐。
口が悪く、平気な顔で嘘をつく彼に、小夜は訊く。
「ねえ。私たち、前に会ったことある?」
ほんの少しの沈黙のあと、ヨイは答えた。
「──知らね」
それが、彼が小夜についた最初の嘘だった。
町を歩くたび、違和感は増えていく。
初めて会ったはずの怪異たちは小夜を見ると跪き、ある者は笑い、ある者は涙を流す。
そして、誰も小夜に「ようこそ」とは言わない。
「お帰りなさいませ」
「ずっとお待ちしておりました」
帰る場所を探しているはずなのに、町は小夜を帰そうとしない。
一方、小夜のいた世界では、彼女が存在した証が少しずつ失われていく。
写真から姿が薄れ、記録から名前が消え、人々はその顔を忘れていく。
それでも、鬼灯町だけは忘れない。
小夜の名前を。
小夜の顔を。
そして、小夜自身さえ忘れてしまった、遠い昔の約束を。
忘れることは、失うことなのだろうか。
離れることは、終わることなのだろうか。
これは、忘れられたものたちが辿り着く町で始まる、一人の少女と、ひとりの怪異と、ひとつの約束の物語。
そしていつか、
「さよなら」のあとにも残り続けるものを、
彼らが見つけるまでの怪異譚。
たとえあなたが忘れても、
この町だけは、あなたを覚えている。
──“さよなら”の、その先まで。
この町だけは、あなたを覚えている。
忘れられたものは、どこへ行くのだろう。
幼い頃に失くした玩具。もう呼ばれることのない名前。誰も訪れなくなった場所。いつか確かに交わしたはずなのに、思い出せなくなった約束。
そして、誰の記憶からも消えてしまった人。
もしも、そうして世界から零れ落ちたものすべてに、最後に辿り着く場所があるのなら。
きっとそこには、赤い鬼灯が灯っている。
──鬼灯町。
地図には載っていない。
けれど夕暮れと夜の狭間、帰る場所を見失ったものの前にだけ、その町へ向かう道は現れるという。
高校二年生の少女・小夜が鬼灯町を訪れたのは、忽然と姿を消した親友・真白を探すためだった。
手掛かりは一枚の写真。
古びた商店街、夕暮れの空、軒先に揺れる赤い鬼灯。そして、その裏に記された『鬼灯町』という文字。
ある雨の夕暮れ、小夜は見覚えのないバス停から古びたバスへ乗り込む。
その先で待っていたのは、人ならざるものたちが暮らす、どこか懐かしい町だった。
死者ばかりが泊まる宿。
名前と引き換えに願いを叶える古書店。
真夜中にだけ開く駄菓子屋。
子供しか乗ることのできないバス。
どれも知らない。
来たことなど、一度もない。
それなのに──
──私は、この景色を知っている。
そんな町で出会ったのは、ヨイと名乗る怪異。
片目を覆う濡羽色の髪に、黒い長羽織。右手首には、色褪せた赤い組紐。
口が悪く、平気な顔で嘘をつく彼に、小夜は訊く。
「ねえ。私たち、前に会ったことある?」
ほんの少しの沈黙のあと、ヨイは答えた。
「──知らね」
それが、彼が小夜についた最初の嘘だった。
町を歩くたび、違和感は増えていく。
初めて会ったはずの怪異たちは小夜を見ると跪き、ある者は笑い、ある者は涙を流す。
そして、誰も小夜に「ようこそ」とは言わない。
「お帰りなさいませ」
「ずっとお待ちしておりました」
帰る場所を探しているはずなのに、町は小夜を帰そうとしない。
一方、小夜のいた世界では、彼女が存在した証が少しずつ失われていく。
写真から姿が薄れ、記録から名前が消え、人々はその顔を忘れていく。
それでも、鬼灯町だけは忘れない。
小夜の名前を。
小夜の顔を。
そして、小夜自身さえ忘れてしまった、遠い昔の約束を。
忘れることは、失うことなのだろうか。
離れることは、終わることなのだろうか。
これは、忘れられたものたちが辿り着く町で始まる、一人の少女と、ひとりの怪異と、ひとつの約束の物語。
そしていつか、
「さよなら」のあとにも残り続けるものを、
彼らが見つけるまでの怪異譚。
たとえあなたが忘れても、
この町だけは、あなたを覚えている。
──“さよなら”の、その先まで。
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