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第一章
16縁切り
しおりを挟む既に社交界で流れた噂を払拭するのは難しい。
人の噂とは恐ろしい物で、ここから飛躍するのは確実だ。
「貴方、どうするの」
「こちらも代理人を立てて、示談だ」
「こちらの弁護士に頼んで説得するのね!」
ライアンの言葉にミリアはありえないと思った。
「お義母様、示談の意味を理解されていますか。私達は加害者です」
「加害者…」
「法廷で訴えられれば賠償金、もしくは懲役三年です」
ライアンは絶句した。
いくら何でも重すぎると思ったが、これは国が決めた法律だった。
「幸いにもカナリア嬢は訴えるとはおっしゃっていません。訴えようとしているのはキャスティ家です」
「キャスティ家からすれば、商会の会員が不祥事を起こして干されている状態だ。しかも宰相閣下の奥方が圧力をかけていてもおかしくない…が、私からすれば生ぬるい」
「そうですわね。私の父なら相手方に婚約破棄をしたことで訴え慰謝料を浮気相手にも請求しますわ」
「それは…」
「精神的な苦痛、肉体的な苦痛。王家から追放まで追いやるなんて…そんなにカナリア嬢が憎かったの?」
「僕は…」
憎しみを持っていたわけではない。
ただ自由な恋愛をして幸せになりたかった。
窮屈な社交界に疲れていたランドルフは現実から逃げただけだった。
「貴族である以上は義務があるわ」
「人として幸福になることはいけないことですか」
「愛の為に人の思いを踏みにじっていいと?」
「僕はそんなつもりは…」
「つもりがなければ人を殺していいの?貴方はカナリア・ウィスターを社交界から消したのよ。そんなに貴族が嫌なら貴族を止めなさい」
「義姉上!」
話し合いにもならず、二人の間には亀裂が生じた。
「なんて酷い事を…他人の貴女に…子供産めない出来損ないの癖に!」
「出来損ない?」
「そうよ…跡取りも産めず。嫁としての役割を果たせないじゃない!ハズレだわ…だから私は」
ミリアは子供が出来にくい体で結婚して五年。
子宝に恵まれずにいた。
エスターは子供が出来ないなら養子縁組をすればいいと言ってくれた。
ミリアはその言葉に救われ、オイシス家の仕事を率先して手伝い商会を立ち上げて夫婦二人三脚で頑張って来た。
姑であるライアンに対しても一歩下がって来たつもりだったが。
「そうですか…お義母様はずっと私をそんな風に。子供も産めない出来損ないと」
「あっ…」
ライアンは怒りに任せて言ってはいけないことを言ってしまった事に気づいた。
「解りました」
「え!何を…」
「私はこれ以上、この家にいれません」
ミリアは耐え切れず自分の思いを口にした。
「私はこの家を出て行きます。エスター…」
「私は君と別れる気はない。君と別れるぐらいならこの家を捨てる」
「兄上!何を…」
「お前が私達を間違っているというならお前の正しさを証明すればよい。好きにしろ」
理性的なエスターは冷たく言い放つ。
普段は感情的にならないのだが、この時だけは違った。
「私達は夫婦として絆がある。理で芽生えた愛がな」
愛がないと思っていた長男夫婦の間には揺るぎない信頼と愛情が確かにあったのだった。
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