『春を嫌う僕は、君に恋をした』

別れが嫌いだった。

大切なものほど、いつか失う。
その痛みを知ってしまえば、人は二度と元には戻れない。

そう語っていた祖父・綴野雷光の思想を継ぎ、綴野春陽は人と深く関わることをやめた。

努力もしない。
期待もしない。
誰にも心を開かない。

嶺郷寺高等学校へ通う彼は、まるで感情を閉ざしたように静かな日々を送っていた。

しかし、完全に心を閉ざしているわけではなかった。

天ヶ瀬澪。

世界的な影響力を持つ名家・天ヶ瀬家の令嬢であり、かつて春陽が執事として仕えていた少女。

彼女は今もなお、春陽へ真っ直ぐな想いを向け続けていた。

「……戻ってきてよ」

その言葉に、閉ざしたはずの心が少しずつ軋み始める。

だが春陽は知られてはならない秘密を抱えていた。

それは――
彼が常人離れした体術と頭脳を持っていること。

執事として育てられた春陽は、護衛術、戦闘技術、心理分析、戦略思考など、あらゆる分野を叩き込まれてきた。

その実力は高校生の域を遥かに超えている。

だが彼は、その力を決して表へ出そうとはしなかった。

力を使えば、また誰かを守りたくなる。
誰かを大切にしてしまう。

そして再び、“別れ”が怖くなるから。

しかしある事件をきっかけに、春陽は再び天ヶ瀬澪を護るため動き始める。

これは、
別れを恐れ、孤独を選んだ少年が、

一人の少女と出会い、
再び“誰かを愛する痛み”を知っていく物語。

そして――

過去を継いだ少年が、
過去を超えるまでの物語。
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