春の残香 ~汽車の窓に、なごりの桜~
香川県・多度津町。
四国鉄道発祥の町で、多度津駅に勤める駅員・橋倉雅治は、春になるたび祖父のことを思い出す。
祖父・勇もまた、かつてこの町で人々を送り出す仕事に就いていた。だがその胸には、生涯忘れることのない、ひとつの別れが残されている。
時は大正十四年。
勇と小春は、幼い頃からいつも共に過ごしてきた。
鉄道に夢を抱く勇と、商家の娘として育つ小春。二人にとって、隣にいることは当たり前だった。
しかし、この年、二十歳を迎える小春が変わりはじめる。
何を問うても本心を語らず、ただ曖昧に微笑むばかり。
「勇さん……私、遠くへ行くことになったの」
やがて春の日、小春は突然、町を離れることを告げる。
勇が「いつ?」と問えば「明日」と答えた。
「見送りは……いいから」
小春はそう言うと僅かに視線をそらした。
翌日――勇は駅員としての最初の仕事に就き、ホームに立つ。
押し寄せる人波の中、必死に小春の姿を探すが見つからない。
発車間際、ようやく視界の端に彼女の姿をとらえる。
窓を隔て、互いに気付く二人。
言葉を交わそうとしたその瞬間、汽笛がすべてを掻き消した。
動き出す汽車の窓に残されたのは、伝えられなかった想いと、散りゆく桜だけだった。
四国鉄道発祥の町で、多度津駅に勤める駅員・橋倉雅治は、春になるたび祖父のことを思い出す。
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時は大正十四年。
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しかし、この年、二十歳を迎える小春が変わりはじめる。
何を問うても本心を語らず、ただ曖昧に微笑むばかり。
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「見送りは……いいから」
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押し寄せる人波の中、必死に小春の姿を探すが見つからない。
発車間際、ようやく視界の端に彼女の姿をとらえる。
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動き出す汽車の窓に残されたのは、伝えられなかった想いと、散りゆく桜だけだった。
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