キャスリン・アダムス・スペンサーの忘却

キャスリンが、階段の上段からうっかり足を踏み外したのも、そのまま階下へ転落したのも事故だった。

階下に、婚約者が見えたのだ。
ヘンドリックは一人ではなくて、彼はとある令嬢と向かい合っていた。

それは婚約者が懇意にしていると噂されていた令嬢で、階段の踊り場で向き合う二人を見ただけで、キャスリンは胸が大きく跳ねた。

すっかり足元が疎かになってしまった為に、階下へ転落したキャスリンは、昏睡したのち目を覚ます。

意識が混濁するキャスリンに、医師は記憶の健忘と判断した。

だが、密かに記憶が蘇ったキャスリンは思わず呟く。

「ああ、なにもかも忘れてしまいたい」

キャスリン・アダムス・スペンサーは忘却を決め込んだ。


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