クマーラジーヴァ〈鳩摩羅耆婆〉~破戒僧として生きる運命を選んだ訳聖~
天竺発祥の外来宗教だった仏教が中国に根付くうえで、仏典の漢語訳は絶対に必要な事業だった。そのなかで、「訳聖」と称されるほど重要な役割を果たした人物に、クマーラジーヴァという西域『亀茲』出身の僧侶がいた。中国では「鳩摩羅什」と記名される彼は、天竺人の僧侶であった父と、『亀茲』国の王女であった母から、類稀な美貌と語学の才能を受け継ぎ、若くして俊英の名をほしいままにして、その前途は洋々であるかのように思われていた。
しかし、中国の華北を統一した「(前)秦」の皇帝、苻堅にその才を見込まれ、招聘されたことから、その生涯に狂いが生じ始める。苻堅が西域に派遣した将軍、呂光に母国を滅ぼされ、囚われの身となったクマーラジーヴァは、長安へ送られる寸前、「淝水の戦い」による敗北で「(前)秦」が崩壊したことを知らされる。それを受けて、涼州で自立した呂光に十六年もの長きにわたって軟禁されるなか、思いもかけず戒律を破らなければならない運命を強いられることになる。
彼が精力的に仏典の漢訳に携わることができたのはその晩年、「(後)秦」の第二代皇帝、姚興により国師として長安に招かれてから後のことで、そこで大いなる業績を残しはしたが、それを自分では「臭泥の中に蓮花を生じるが如し」とも卑下していたともいう。
私の別の物語である『「晋書」編纂異聞~英主の妄執と陰謀~』のなかに登場する人物のなかから、特に興味を引いた人物を取り上げるスピンオフ的な物語の第一弾として、クマーラジーヴァ(鳩摩羅什)の生涯をまとめたもの。別の投稿サイトで一時連載していましたが、それを中断し、改めて書き直しています。
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