風待ちの魔女郵便
国境を越え、人から人へ手紙を運ぶ――それが、国際郵便組合に所属する「郵便魔女」の仕事である。
二十歳の郵便魔女、リネット・ファルン。通称リン。
真面目で責任感が強く、少しばかり仕事が好きすぎる彼女には、ほかの誰にもない力があった。
人や船が空を飛ぶために整備された魔力の道〈風路〉。リンだけは、その流れが消えたあとにも残る、ごく微かな痕跡を感じ取り、再び飛べる道として辿ることができる。
ある日、配達中のリンの目の前で、使われていたはずの風路が突然消失する。
失われた旧風路を辿り、十六年遅れの手紙を届けた彼女の鞄には、帰路で見覚えのない封筒が入り込んでいた。
押されていたのは、四十二年前に廃止された「風待ち郵便局」の消印。
便箋に記されていたのは、三日後に起きる、次の風路消失の予告だった。
やがてリンは、消えた風路の奥で、行き先を失った郵便物が集まり続ける古い郵便局へ辿り着く。
戦争で閉ざされた国境。
地図から消えた町。
受け取ることを拒み続けた人。
届けるには、あまりにも時間が経ちすぎた手紙。
手紙が届けば、止まっていた時間が動き出す。
けれど、届いた言葉が誰かを救うとは限らない。忘れようとしていた過去や、二度と戻らない人の思いを呼び覚ますこともある。
郵便魔女にできるのは、誰かの答えを決めることではない。
ただ、受け取るかどうかを選べる場所まで、その手紙を運ぶことだけだ。
それでもリンは、郵便鞄を背負い、箒にまたがる。
待っている手紙と、それを受け取るかもしれない誰かのために。
これは、風の途絶えた空を飛び、届かなかった思いをもう一度旅へ戻す、一人の郵便魔女の物語。
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ただ、受け取るかどうかを選べる場所まで、その手紙を運ぶことだけだ。
それでもリンは、郵便鞄を背負い、箒にまたがる。
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