長編 人魚姫と堕天使(ヲトメ)

わたくしは海の底で、日々を淡く夢みておりました。
 けれどもある日のこと、きらめく波間に、あのお方のお姿を見つけてしまったのです。
 王子様……そして、いつも傍らに寄り添う従者殿。
 おふたりの視線がふと絡み合う、そのひととき。
 胸の奥が甘く震え、わたくしは海の泡よりも儚く身をよじらせました。

 ――ああ、これこそ乙女の夢、乙女のときめき。
 どうしてわたくしは、この光景を前にして涙がこぼれてしまうのでしょう。

 わたくしは決意いたしました。
 この胸の高鳴りに殉じるためならば、声を失おうと、痛みに苛まれようと、陸へ上がりましょう。
 だって、乙女ですもの。

 けれども……。
 けれどもですわ。

 そのお方が、あろうことか隣国の姫君との婚約をなさると聞いたとき、
 わたくしの胸は張り裂けるようでございました。

 「野郎、日和りやがった…!」

 その一言が、ひび割れた唇からこぼれ落ちたとき、わたくしは自らの心の真実を知ったのです。
 これは恋などではございません。萌え、でございます。
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