あなたの声に抱かれたくて

「いってらっしゃい! 気をつけてね!」
 「あぁ……わかってる!」
 「ママ、いってきます」
 
 オレンジのフレアースカートと白いTシャツ姿の女性が、手を振りながら笑顔で、イベント会社で働く夫と9歳の子供を送り出す。

 少し、揺れ始めた自分の二の腕が視界に入り、ハッと手を下げる。

 2人が乗った車が、視界から消えると、大きく息をして家の中に入る。
 
 ほんの数分前の慌ただしかった、リビング。テーブルの上に、3枚の皿と3つのマグカップとパンくず。

 大きなため息をつくとテーブルの上はそのままで、茶色のソファーに深く座る。
 いつものように、木製のローテーブルに置かれたノートパソコンを開く。

 女性の名前は、坂井 美和。35歳になる。通販会社のコールセンターで、10時からパートの仕事をしている。

 美和が、いつも見るのは、アダルト動画サイト。ジャンルからアニメを選択する。

 『人妻狩り 復讐の先に』

 卑猥な描写が多く。決してクオリティーの高い作品でもない。

 美和は、イヤホンを耳に差し込むと目を閉じる。

 卑猥な描写に、視線を向ける事は、ほとんどない。

 『声』
 
 美和は、イヤホンを通して聞こえる。女性を辱しめる男性の声と女性の悲鳴と喘ぎ声。

 特に、主人公の男の声に依存している。それは自覚している。
 
 フレアースカートを太ももまで、たくし上げると、湿り気を帯びた秘部を自ら指で、撫で始める。
やがて、喘ぎ声を上げ果てる。

 フラッとよろめきながら浴室に行き、シャワーを浴びる。その後は、何食わぬ顔で、家事を終えると
寝室に行き、肩より少し長めの髪を後ろで結い、鏡の前で薄化粧をして仕事に出かける。

 誰も知らない。地味で真面目な人妻のルーティン。

 ある日、美和は、一本の苦情電話を受ける。聞き覚えのある声。

 それは、毎朝、見るアダルト動画サイトのアニメの主人公と同じ声。

 エンドロールに流れる声優とは、違う名前。彼女は『本人』だと確信する。
 確信するのは、簡単だった。それは、彼女の湿り気を帯びた秘部の反応が、裏付けるから。

 「会いたい!」美和は、彼へ懇願する。

 彼は、会う事を承諾するが、待ち合わせの場所に、あったのは1台のスマートフォン。

 スマホから流れる呼び出し音。それは、彼からの電話。

 彼の『声』に魅せられ、翻弄される人妻。
 
 美和を、まだ見ぬ世界へと導く『声』。

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