ラグナロク-とある冒険者の日常-

「最強」を縛るのは、法ではない。更なる「底知れぬ恐怖」だ。


浮遊大陸《バベル》に座する国際機関《ラグナロク》が支配する世界。そこでは公的等級こそが人間の価値を決め、最上位のⅦ等級《理外兵器》は、一国を滅ぼし兼ねない「歩く天災」として君臨している。

彼ら化け物たちが、なぜ国際法を遵守し、世界の均衡を保っているのか?

それは、過去に暴走したⅦ等級を瞬く間に「処理」した謎の抑止力、《untouchable》への絶対的な畏怖があるからに他ならない。

そんな神話の如き緊張感が漂う世界の片隅、ムスペリア王国の名門ギルド《アルテミス》には、一人の自称「粗大ゴミ」が放置されていた。

「黒竜? 嫌だよ、魔力使うとお腹減るし。……それよりこのコロッケ割引券、やるよ」

安藤(アンドウ)。公的等級Ⅴ。

かつて《空絶》の名でバベルの勢力図を塗り替えたはずのその男は、今やよれよれのトレンチコートに身を包み、ギルドのソファで週刊誌を顔に乗せていびきをかく「昼行灯」と化していた。

周囲からは「ギルドの寄生虫」と蔑まれ、後輩のエレンからは毎日説教を食らい、腰の剣『月読』は便利な棒扱い。

しかし、平穏な日常の裏側で、世界は静かに歪み始めていた。

事務的なミス、若き冒険者の無謀な功名心、そして飛来する災害級の魔物。

安藤は「面倒だ」と毒づきながら、今日も重い腰を上げる。

それは世界を救うためでも、名誉のためでもない。ただ、「目の前で困っている後輩」を見捨てられない、最高に損な性格ゆえに。

行灯に火が灯る時、世界は再び思い知る。
空間を断絶し、理を切り裂く、あの《空絶》の絶望的な美しさを。
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