拍手の届かない席から

拍手が好きだ。自分に向けられたことは、一度もないけれど。

 高校三年の三谷波瑠は、ピアニストを目指す幼なじみのコンクール書類を整え、小説家志望の後輩の原稿に感想を書き、進路に悩む下級生の推薦状を練る。
放課後活動支援部、通称ゆめ部のたった一人の部員。
誰かの夢を裏方で整えることが、波瑠の放課後のすべてだった。

 高三の二学期、転入生の瀬戸内廻がゆめ部にやってくる。なんでもそこそこできるのに、なんにも本気になれないという廻は、ある放課後、波瑠に尋ねた。

「お前は、何がしたいの」

波瑠は答えられなかった。その問いの形をした穴が、ずっと前から胸の真ん中に空いていたことに、気づいてしまったから。

 幼なじみのピアノの才能は、遠い舞台の上でますます輝いていく。後輩の小説は、波瑠の知らないところで誰かの心を動かし始めている。みんなが前に進む。でも、波瑠だけが客席に座ったままでいる。
 支えているつもりだった。でも本当は、自分自身と向き合うことから、ずっと目を逸らしていただけなのかもしれない。

 夢を追って家族を置いていった父。才能を信じることをやめた母。十六年間閉ざされていた書斎の奥に眠る、一枚の絵。
 すべてが繋がったとき、波瑠の足元が揺れる。

 海が見える丘の上の高校で過ごす、最後の半年間。

 夢を持てない少女が、夢を持てないまま、自分の足で立ちあがるまでの物語。

 あの日、コンクール会場の暗い客席で流した涙の意味を、波瑠はまだ知らない。
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