戦は嫌にございます!
黒瀬景親は、戦がうまい。
峠を押さえ、川筋を断ち、国人衆の面子を操り、勝てる戦を勝つ男である。
ただし彼にはひとつだけ弱点があった。
勝ったあとの後始末――つまり、兵糧、扶助米、借米、商家への信用、戦後統治の運用保守を、少し軽く見ていたのである。
そんな景親のもとへ都の旧家から輿入れしてきた妻・綾子。
御簾の向こうで育った、血なまぐさいことなど知らぬ姫君……のはずだった。
北の境で戦の気配が生じ景親が出陣を決めた夜。
綾子は白い小袖で夫の前に座し、こう言った。
「戦は嫌にございます!」
怖がっているのだと思った景親に、綾子が差し出したのは涙ではなく帳面。
そこには、合戦の勝利条件、兵糧負担、戦死者扶助、負傷兵の労働補填、戦後三か月以内の財政回復計画まで、びっしりと書かれていた。
「お気持ちで米は増えませぬ」
戦上手な夫と、戦を始めさせないのがうまい妻。
これは戦国の世を帳面と稟議で生き抜く、ある夫婦の内政コメディである。
峠を押さえ、川筋を断ち、国人衆の面子を操り、勝てる戦を勝つ男である。
ただし彼にはひとつだけ弱点があった。
勝ったあとの後始末――つまり、兵糧、扶助米、借米、商家への信用、戦後統治の運用保守を、少し軽く見ていたのである。
そんな景親のもとへ都の旧家から輿入れしてきた妻・綾子。
御簾の向こうで育った、血なまぐさいことなど知らぬ姫君……のはずだった。
北の境で戦の気配が生じ景親が出陣を決めた夜。
綾子は白い小袖で夫の前に座し、こう言った。
「戦は嫌にございます!」
怖がっているのだと思った景親に、綾子が差し出したのは涙ではなく帳面。
そこには、合戦の勝利条件、兵糧負担、戦死者扶助、負傷兵の労働補填、戦後三か月以内の財政回復計画まで、びっしりと書かれていた。
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